Hinterm Horizont観劇記(2011年6月)

2011年6月のドイツの旅、2泊したBerlin(ベルリン)では”Hinterm Horizont“と”We Will Rock You“を観劇しました。当初の予定ではどちらも観るつもりではなかったのですが、Magdeburg(マグデブルク)で知り合ったMainz(マインツ)から来たというミュージカルファンの年配のご夫婦に、私より1日早くBerlin入りして”Hinterm Horizont”を2回観る予定なので待ち合わせしませんかとお誘いいただいたので、当日券で観劇しました。Berlin Hauptbahnhof(ベルリン中央駅)でたまたま広告を見て購入したBerlin WelcomeCardを劇場窓口で見せると、カテゴリー 1、1階2列目センターやや右寄りの席が手数料込み定価79.90 EURのところ25%割引で59.93 EURになりました。Berlin WelcomeCardは48時間有効で16.90 EURだったので、これだけで元が取れます。更に有効期間内は市内交通乗り放題、美術館・博物館等が最大50%割引になる特典があるので、今回は大変使い手がありました。

2011年1月に開幕した”Hinterm Horizont”の上演劇場Theater am Potsdamer Platzは、Potsdamer Platz(ポツダム広場)から徒歩5分ほど。Berlin Mitte駅近くのホテルからバスに乗ろうと思ったものの、丁度発車したところだったので、10分待つよりは20分歩くことにしました。


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写真奥にSony Centre(ソニーセンター)の屋根が見えます。

看板の矢印に従って並木通りを歩いて行くと・・・

目の前にTheater am Potsdamer Platzがありました。

トレードマークの帽子を被ったUdo Lindenbergの横顔シルエットの手前には、Berliner Mauer(ベルリンの壁)、奥にはBrandenburger Tor(ブランデンブルク門)やFernsehturm(テレビ塔)等のBerlinを象徴する風景が描かれています。

Hinterm Horizont
2011年6月20日(月)19時公演

メインキャスト
Udo: Patrick Stamme
Jessy (jung): Josephin Busch
Jessy (alt): Aline Staskowiak
Elmar: Marcus Schinkel
Steve: Christopher Brose
Jessies Vater, Marco (alt), Eddy Kante: Thomas Schumann
Stasi Patschinsky: Florian Hacke
Stasi Krause: Ralf Novak
Mutter, Pressesprecherin: Dorina Maltschewa
Mareike: Karolina Thorwarth
Marco (jung): Sebastian Stipp
Minister: Rainer Brandt
Barbara Saftig: Ilona Schulz
Stasi Fritzsche: Dustin Peters
Kmetsch: Marco Fahrland-Jadue
Kremer: Eckhard Müller
Der Irre: Ch. Brose/F. Lüdtke/L. Kemter
Dr. Werner, Prof. Scheuerlich: Christian Intorp

アンサンブル
Yara Blümel, Dolan José, Oleg Karmazin, Silvano Marraffa, Eleonora Talamini, Franziska Trunte, Luisa Wietzorek

“Hinterm Horizont”(地平線の彼方に)というタイトルは、冷戦時代東西に分断されたBerlinを象徴しています。旧西独出身の実在のロック歌手Udo Lindenbergは、1983年10月に当時の東ベルリンでコンサートを行った初めての西側の人間。その彼のヒットソング”Mädchen aus Ost-Berlin”(東ベルリンから来た少女)には、実はモデルがいたという架空の設定を元に、東ベルリンに住む17歳の少女JessyとUdoとのラブストーリーが描かれます。劇中歌はUdo Lindenbergのヒットソングメドレーで、”Mamma Mia”や”We Will Rock You”、”Ich war noch niemals in New York”のような路線の作品です。客席には往年のUdo Lindenbergファンと思われる年配のお客さんが目立ち、現在77歳の歌手Udo Jürgensが楽曲を提供した”Ich war noch niemals in New York”の観客層が、やはり年配の方中心だったことを思い出しました。

2011年、夫と息子を持つ主婦Jessy Schmidtの元を女性記者が訪れます。1983年に撮影されたUdo LindenbergとFreie Deutsche Jugend(自由ドイツ青年同盟)の制服を着た少女が抱き合う写真に写っているのはJessyで、彼女こそがUdoのヒットソング”Mädchen aus Ost-Berlin”のモデルではないかと尋ねる記者に、Jessyが旧東独時代の過去を語る形で物語は始まります。両親とUdoファンの兄Elmar、Jessyの男友達でハンマー投げ選手のMarcoがJessyを取り巻く人々として登場します。東ベルリンで行われたUdo Lindenbergのコンサートで彼に花を渡す役目を務めたことをきっかけに、JessyとUdoの距離は縮まります。しかし挑発的なUdoに熱狂する人々が体制に影響を与えることを恐れた東独政府と秘密警察は、彼を危険人物と見なします。Jessyは検閲を逃れるためにUdoへのラブレターを兄Elmarに託しますが、Elmarは警察に捕まってしまいます。家族を監獄送りから救うため、Jessyは秘密警察のスパイとなる書類にサインせざるを得ませんでした。

釈放後、Elmarは西独に亡命します。一方Jessyの元には、モスクワでUdoがコンサートを行うとのニュースが飛び込んできます。共産圏のモスクワ行きであれば旅行許可が取れるため、JessyはUdoの元に駆けつけ、二人は一夜を過ごします。東ベルリンに戻ったJessyは、数ヶ月後に妊娠していることを知ります。産まれてくる子供のため、Marcoと結婚したJessyにとって、Udoとの関係は過去のものとなっていきます。1989年11月9日、ベルリンの壁崩壊の日が訪れます。その直後、旧西ベルリン側のイベントホールDeutschlandhalleで行われたコンサートで、JessyはUdoと再会を果たします。しかし二人が出会う直前に、Udoは自身に関する調査書類を売りつけようとした秘密警察の人間から、Jessyが彼をスパイしていたことを知らされていました。二人の再会は短時間で終わり、かつての愛が再び蘇ることはありませんでした。二人の間に産まれたSteveは23歳になり、Jessyと夫Marcoの子供として暮らしています。

東ベルリンの伝説のコンサートとUdo Lindenbergの名前は知っていたものの、ストーリーも歌も全く予習をしていなかったので、内容が分かるか心配でしたが、何とか大体の展開にはついていけました。もっとも耳慣れないベルリン訛りが飛び交う会話の詳細は、私のドイツ語力では追い切れませんでしたが(汗)。ストーリー自体はそれほど凝った内容ではなく、スターと普通の女の子の恋愛という二昔前の少女漫画のような設定を東ベルリンに持ってきたという感じでしたが、劇中には当時の映像やエピソードが多用され、旧東独にタイムスリップ観光をしたようで意外に楽しめました。ご一緒したドイツ人ご夫妻は、東西ベルリンを題材にした作品を、まさにその現場となった地で観られることが素晴らしいと仰っていました。東西分断時代に青春時代を送り、1989年のベルリンの壁崩壊と1991年の東西ドイツ統一をリアルタイムで体験した世代には、独特の感慨があったようです。

少女時代のJessy役を演じるJosephin BuschはBerlin出身、東独時代に政府の中枢が置かれていたPankow(パンコー地区)在住だそう。Pankowといえば東独政府を象徴する特別な響きがありました。1983年2月に発表したシングル”Sonderzug nach Pankow”(パンコー行き特別列車)で、当時東独政府のトップの座にいた国家評議会議長Erich Honecker(エーリッヒ・ホーネッカー)に呼びかける形で、「他の歌手達は皆Palast der Republik(共和国宮殿、東独のシンボル的イベントホール)で歌わせてもらえるのに、自分だけ出演できないなんて何でか分からない。あんたはホントはロックファンで、こっそり革のジャケットを着てトイレにこもって西側のラジオを聴いてるんだろ?」と皮肉たっぷりに歌ったUdo Lindenbergは、同年10月にPalast der Republikで開催されたロックフェスティバル”Rock für den Frieden”(平和のためのロック)への出演が許可されます。しかし翌1984年に計画したツアーは、東独政府の許可が下りず幻に終わりました。

Udo Lindenberg役のファーストキャストは、”Elisabeth”のDVDでLuigi Lucheni役を演じているSerkan Kayaですが、私が見た回ではPatrick Stammeが演じていました。彼は”Tarzan”の主演俳優を決める公開オーディション”Ich Tarzan, Du Jane”でファイナリストに残った経歴の持ち主。金髪と筋肉質のスタイルが、若い頃のMáté Kamarásを彷彿とさせる俳優さんでした。

大人になったJessy役のAline Staskowiakは、旧東独地域のSachsen-Anhalt(ザクセン・アンハルト州)の都市Stendal出身。1976年生まれとのことなので、自分自身の子供の頃を思い出しながら演じているのかもしれません。

Theater am Potsdamer Platzの真向かいには、”Blue Man Group”を上演中のBluemax Theaterがありました。

終演後、ドイツ人ご夫妻にお誘いいただき、軽く飲みに行きました。Berlin名物のビールBerliner Weiße(ベルリーナー ヴァイセ)は、通常のアルコール発酵の後に乳酸発酵が行われるため酸味が強く、甘いフルーツシロップを入れて飲むことが多いそう。一度飲んでみたかったので、頼んでみました。ラズベリー風味で甘いカクテルのようでした。

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4 Comments

  1. 今日観て来ました。いま劇場からホテルに戻ったところです。今日は20時開演なので終わったのは23時回っていました。ベルリンは仕事がらみの滞在なので事前に予定がわからず、spaさんと同じくベルリンウェルカムカードの25%オフで当日券を押さえました。8列目のほぼセンターでした。
    今日のUdo役はSerkan Kayaでした。
    spaさんが書かれたあらすじ読んでいたので、歌詞は何とか理解できましたが、台詞は早口の掛け合いが多いのであまり聞き取れなかったです。また舞台脇の英語字幕をチラ読みしてしまいました。プログラム売り場でプログラムに英語のあらすじは載っていないか聞いたら全部ドイツ語といわれましたが、無料で英語のあらすじを書いた小冊子をもらえましたので、これを開演前に読んでさらに備えたのですがやはり厳しいですね。
    このミュージカルはまさにベルリンのご当地もので、ベルリン分断の歴史知識がないと観てもまったくわけがわからないでしょうね。
    私は昔まだドイツが二つあったころに、ベルリンに来たことがあるのである程度はこの作品の背景が理解できました。というと歳がばれますね。
    左右の可動式のスクリーンの上端が円柱状になっていてベルリンの壁を表現しているのは芸が細かいと思いました。
    曲でも特に印象に残るものはなかったですが、周りのドイツ人のおばさまがたは最後は曲を口ずさみながら手拍子でフィーバーしていましたので、spaさんのいわれるニューヨークへ行きたいと同じ趣向の作品というのはまさにそのとおりだと思います。

    • Hungerさん、この記事を書いたときはマニアックすぎてあまり見に行く方はいないかなと思っていたのですが、お役に立ったようで大変嬉しいです。8列目センターとは良いお席でしたね。英語字幕、私の時はなかったように思いますが、2列目とあまりにも近すぎたので、あっても読めなかったと思います。英語の小冊子があるとは初耳です。情報ありがとうございました。ただ言葉の問題もさることながら、やはり歴史的背景を知らないと理解しづらいですよね。私もベルリンが東西に分断されていた時代を知っているので、こうして過去の話としてミュージカルの題材になっていることに感慨を覚えました。始まったときは1年ほどで閉幕するかと思っていましたが、こうしてロングランになっているところを見ると、"Elisabeth"以来のご当地物ヒット作かもしれませんね。

    • spaさん、コメントありがとうございます。無事帰国しました。
      この作品、ハンブルグでも上演予定とNeueFlora劇場に書かれていましたので、ドイツ人には人気のようです。ただ日本で演ってもぜったい受けないのは確実でしょうね。
      「フリードリッヒ通り駅を通って」とか、西ベルリンの自分の息子から電話がかかってきたとき母親が「刑務所からではないんだね?」と確認するなど意味の深い台詞が多かったです。

    • Hungerさん、お帰りなさいませ。お仕事でお忙しい中、フレッシュなレポートを多々ありがとうございました。"Hinterm Horizont"がハンブルクでも上演予定とは初耳です。ずっとベルリンのみの上演を売りにしていたので、かなり意外です。旧西側での上演となると、また雰囲気が違う気がします。やはりご当地ミュージカルはその場で見てこそだと思います。背景となる歴史もUdo Lindenbergの歌も知られていない日本での上演はまずないでしょうね。ドイツでも当時を知っている世代には受けていますが、若い世代にどう映っているかは不明です。

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