Liebe Stirbt Nie観劇記(2016年5月)

Liebe Stirbt Nie Operettenhaus

2ヶ月前の旅行のまとめもしないうちに、再びドイツ・Hamburg(ハンブルク)で”Liebe Stirbt Nie”(Love Never Dies、ラヴ・ネヴァー・ダイズ)を観劇してしまいました。再訪の最大の理由は、前回ファーストファントムのアイスランド出身のオペラ歌手Gardar Thor CortesとファーストクリスティーヌのRachel Anne Mooreを見られなかったこと! ゴールデンウィークは日本で観劇と思っていたのですが、予定を変更して旅立つことにしました。計画の途中で知ったのですが、滞在時期が丁度ハンブルクの開港記念日Hafengeburtstag(2016年5月5~8日)と重なり、しかも5月5日は移動祝祭日のChristi Himmelfahrt(キリスト昇天祭)だったため、週末のハンブルクはホテル代が通常の3倍に跳ね上がっており、旅の後半は電車で40分ほど離れたLübeck(リューベック)に移動しました。

Hafengeburtstag Hafengeburtstag201605-02

滞在初日のクリスティーヌは、事前にキャストのFacebookやInstagramで情報を得ていた通り、アンサンブルのスウェーデン人Heidi Karlsson。そしてファントムは念願のGardar!! Raoulは休暇明けのYngve Gasoy-Romdalでした。マダム・ジリーは初演キャストのMasha Karellが卒業した後、新たにキャスティングされたMaaike Schuurmans、メグ・ジリーはCoverのLucina Scarpolini。Heidi Karlssonは26歳と若いですが、大柄で堂々としたクリスティーヌでした。普段はアンサンブルでダンサーもやっているHeidiですが、休暇明けだったせいかやや顎の辺りがぽちゃっとしていて、全体的に心持ちふくよか系な感じでした。クリスティーヌの部屋に死んだと思っていたファントムが姿を現す場面で、床に倒れるはずのクリスティーヌが何故か上手い具合に肘掛け椅子に倒れ込んだのは、きっと細身のGardarファントムが抱きかかえられる限界を超えていたからでしょう。その結果、本来ならクリスティーヌを抱き起こし、お姫様抱っこでぐるりと椅子の前から回り込んで座らせるというファントムの動作が全部省略され、クリスティーヌが気がつくまで手持ち無沙汰になってしまったファントムは、椅子の周りをうろうろしながらしきりに彼女を覗き込んだり、手をあちこちにひらひらさせておろおろして時間を潰さざるを得ない羽目に。その様子がおかしくて、思わずにやっとしてしまいました。強気なHeidiクリスティーヌと繊細なGardarファントム、何だか別れた彼女に思い切りなじられる元カレのように見えてしまいました。2幕後半で行方不明になったグスタフを探し始める場面に登場したマダム・ジリー、頭に巻いた三つ編みが何処かにひっかかってしまったらしく、所々にピンが刺さった三つ編みがエビの尻尾のように飛び出してしまっていました。シリアスな場面なのにまたもや笑いを噛み殺す羽目に。次の出番では応急処置を施したらしく、元通りになっていました。カーテンコールでお辞儀をする前に、ちょっと頭に手をやって軽く会釈をしたマダム・ジリーがお茶目でした。

2日目の開演1時間半ほど前に劇場の近くを通りかかると、丁度Gardarが電話しながら楽屋入りするところが遠目から見えました。前日に隣の席だった女性が、入り待ちを3時間も前からしたのにGardarに会えなかったと非常に残念がっていたのですが、何も意図していないと遭遇するものです。この時点でファントムが誰か分かって安心。クリスティーヌはRachel、ラウルはYngve、マダム・ジリーはセカンドのKaatje Dierks。新マダム・ジリーファーストのMaaike Schuurmansは全体的に声が高めでしたが、セカンドは先代マダム・ジリーのMasha Karellと同じく低音にドスが効いていて、私好みでした。メグ・ジリーはファーストのMaria Danaé Bansen。前日のカバーキャストのメグは全体的にもう一つキレがなかったですが、さすが本役、ダンスも歌もひと味違います。

GardarファントムとRachelクリスティーヌはどちらもオペラ歌手ということで、高尚で芸術的な大人の雰囲気が漂うカップルでした。ハプニングの印象が強かった前日とは違い、この日は落ち着いてGardarの美声を堪能出来ました。Elaine Paigeのデビュー50周年記念コンサートに出演していたGardarを、Andrew Lloyd Webberが自らファントム役としてスカウトしたという逸話や、彼を見た人が皆「とにかく声が素晴らしい」と言っていた意味がよく分かりました。Gardarの魅惑の歌声には、彼自身の全てが込められています! 持てる全て、全身全霊を声に注ぎ込み、空間に壮麗な音楽の山脈を現出させていると言っても過言ではないでしょう! 両腕を広げ、蕩々と歌うGardarの磁力に観客の魂が吸い寄せられていました。ブラボーです!! 開幕当初によく言われていたドイツ語の発音問題も、それほど気になりませんでした。この歌声が権利の問題でCD化されないとは、あまりにも勿体ない! 仮面の奥の愁いを帯びた眼差しにもぐっときました。Gardarファントム、見ることが出来て大満足でした!

前回の観劇旅行で大変興味深かった、メルボルン版の映像とはかなり印象が異なるYngveラウルの演技も勿論見逃せません。前回の観劇では何度かクリスティーヌにキスしそうですれ違う場面があり、クリスティーヌに片思いをしているかのような印象を受けたので、もう一度その演技を確認したいとの思いもありました。ところが観劇初日のHeidiクリスティーヌとは、1幕のホテルの場面冒頭では全くすれ違うことなく思いっきりキスしているではないですか! 前回は私が観劇した前日までYngveは風邪で休んでいたそうなので、私があれこれ推測したような意味はなく、単に風邪をうつさないようにキスを避けていた可能性もなきにしもあらずと思いましたが、翌日のRachelクリスティーヌとの演技では、ラウルがキスする前にクリスティーヌがグスタフの方を向いてしまうという前回観劇時と同じ流れになっていました。大変気になってしまったため、Yngve本人に突撃インタビューを敢行してみたところ、相手によって演技を変えているのだそうです。Rachelは顔を背けるのでキスしないけれど、Heidiは顔を背けなかったので、キスせざるを得なかったとのこと。Yngve曰く「ラウルはもう何年もの間、クリスティーヌとはmouth to mouthのキスをしていないんだと思う。彼は他人との関係を築くことに問題を抱えているんだ」。2幕のコンサート直前の楽屋にクリスティーヌを訪ねる場面で、去り際に妻の唇ではなく手にキスをするのは二人の関係が距離のあるものだという象徴で、それから不意に情熱的なキスをするのは、ラウルの咄嗟の思いの表れだそうです。一つ一つの動作を細かく考えて演技をしていることが分かって、大変興味深かったです。またオルゴールをいじるグスタフをとろけそうな笑顔で見つめた後、頭をなでようと手を伸ばした際に非常にやるせなく複雑な表情を見せ、結局直前で手を止めていたことも気になったので、この点も質問してみたところ、ラウルはグスタフとの関係も上手く築けず、どう接していいか分からないのだそうです。とにかく怒った演技はしたくなかったそうで、メルボルンやロンドンのラウルが何故あんなに怒っているのか分からないと稽古場に現れたAndrew Lloyd Webber本人に言ったところ、何と作曲家自身も同じ思いだったそうです! 凄い裏話を聞かせて貰いました! しかしYngve自身は監督からはもっと怒るようにとの演技指導を受けたと言っていました。

3日目は前日に引き続き、ファントム、クリスティーヌ、ラウルはファーストキャストのGardar、Rachel、Yngve。マダム・ジリーもファーストのMaaike。メグ・ジリーはセカンドのDörte Niedermeier。Dörteは目鼻立ちがはっきりした美人で、ダンスも歌もとても上手く、セカンドキャストとは思えない素晴らしさ! 個人的にはファーストのMaria Danaé Bansenよりも好みでした。この日は全体的にキャストのノリがよく、2幕冒頭のファントムとラウルの対決場面では、勢い余ったGardarファントムが酒場の椅子を舞台端ギリギリまで飛ばしてしまい、オーケストラボックスに落ちるかとひやっとしました。この椅子は後でYngveラウルがさりげなく拾ってバーカウンターの方に投げ戻し、盆に乗った酒場のセットと共に無事に舞台上からはけていきました。移動祝祭日のHimmelfahrtstag(キリスト昇天日)だったためか、平日に比べると客席の反応も良く、カーテンコールに入ると即立ち上がって拍手をする人が多かったです。

4日目はハンブルクからリューベックへ移動。電車で片道40分なので日帰り観劇も出来ないこともなかったのですが、平日の真夜中近くに近郊電車に乗ることに不安があったのと、せっかくなのでリューベック観光に当てることにしました。運河巡りの船に乗った後、ノーベル賞作家Thomas Mann(トーマス・マン)の小説”Buddenbrookhaus”(ブッデンブローク家の人々)の舞台となったBuddenbrookhausを見学しました。Thomas Mannが兄で同じく作家のHeinrich Mann(ハインリヒ・マン)と少年時代を過ごしたこの家は、現在ではHeinrich-und-Thomas-Mann-Zentrumとして記念館及び研究センターの役割を担っています。開港記念祭で混雑するハンブルクで宿を取れなかった観光客が押し寄せてきていたリューベックのホテルは何処も満室。夜9時過ぎに宿に帰ると、バックパッカーの若者カップルがフロントで空室状況を聞いていましたが、市内にはもう部屋はないと言われ、これからハンブルクに向かうと去って行きました。一人300EURはしますよと助言したのですが、仕方がないと諦め顔でした。

Buddenbrookhaus

5日目は朝からハンブルクへ。マチネは見ずに開港記念祭を見物してから最後の”Liebe Stirbt Nie”ソワレ観劇。終演後に劇場近くの港で上がる名物の花火を見たかったので、リューベックからの日帰り観劇を決行しました。この日は土曜日だったので、電車も遅くまで人が乗っているだろうと期待もしていました。ソワレのキャストはGardarファントム、Rachelクリスティーヌ、そして何とMathias Edenbornがラウル! 休暇先からの帰路、機内の乾燥した空気で喉の調子がいまいちと言っていたYngve、どうやら本格的に喉を痛めてしまったらしく、翌週に予定されていたRachelとのStarChatも延期になってしまいました。Yngveの病欠は残念でしたが、滅多にないMathiasラウルを見られたのはラッキーでした。Mathiasラウルは動きも歌も硬質な印象。どちらかというと不機嫌系で取っつきにくいラウルでした。コンサート直前の楽屋にクリスティーヌを訪ねる場面、「ママ綺麗でしょう!」と言うグスタフの言葉を受けて「あの頃と変わらない」と妻を見つめる定番の演技ではなく、グスタフの前にかがんで息子に向かって答えているのが新鮮でした。マダム・ジリーはMaaike Schuurmans、メグはMaria Danaé Bansenでした。

この日のハプニングは1幕終盤、ファントムとグスタフのデュエット”Wo die Schönheit sich verbirgt”(The Beauty Underneath)終了後、グスタフを探しに来たクリスティーヌがメグに息子を託し、ファントムと二人きりになる場面で起こりました。舞台際で熱唱するGardarファントム、マスクの奥で見えませんでしたが、恐らく涙で顔がくしゃくしゃになるほど感情が高ぶっていたのでしょう。鼻先からつーっと垂れた銀色の糸が床にまで達して行きました・・・。本人もまずいと思ったのか、歌いながらこっそり鼻の下を拭ってその腕をそのままクリスティーヌの方に伸ばしたのですが、運悪くその動きに例の蜘蛛の糸がそのままついてきてしまいました。舞台照明を受けて鼻先から腕にかけてキラキラと輝くアーチを見てしまった前方席の観客からは微かな失笑が・・・。Rachelクリスティーヌは何事もなかったかのように、ファントムの手を取っていました。ファントム役者としてはいささかバツの悪いハプニングだったかもしれませんが、文字通り何もかもさらけ出しての大熱演に、私の中ではGardarの株が更に上がりました! 

終演後は劇場裏手の港を臨む高台から打ち上げ花火を鑑賞しました。ライトアップされた大型客船AIDA号から次々と上がる花火を見る大勢の見物客の中には、先ほどまで舞台に立っていた俳優陣もいたようです。花火は15分ほどで終了。港に近いSバーンの駅から中央駅に行くつもりでしたが、あまりにも人が多かったので劇場側に引き返し、地下鉄U3のSt. Pauli駅から移動して正解でした。途中の駅ではホームに入場制限がかかる混雑ぶり。ホーム際から車内に入ろうとした人達も扉付近の乗客が中に詰めないため、乗車を諦めていました。車両の中央部分は全く空いているのに扉付近に陣取って動こうとしない乗客達に、日本との文化の違いを感じました。中央駅から乗ったリューベック行きの電車も、23時半頃だというのに座れない人がいるほどの大混雑でした。

AIDA fireworks AIDA-fireworks201605-02

6日目は夕方ハンブルク発のフライトだったので、午前中はリューベックの市内徒歩観光ツアーに参加しました。リューベックは商業都市として栄えた町で、駅から徒歩10分ほどの旧市街地の入口に聳えるHolstentor(ホルステン門)が有名です。門の市街地側の入口にある”S.P.Q.L.”の標記は古代ローマ帝国で使われた国家全体の主権者を現す”S.P.Q.R.”(Senatus populusque Romanus、元老院とローマの人民)をもじっており、”Senatus populusque Lubecensis”とローマをリューベックに置き換えています。もっとも元高校教師の男性ガイドによると、口の悪いリューベックっ子は”Schmutziges Pflaster quält Lübecker”(汚い舗装がリューベック市民を苦しめる)と言っているそうです。ヴァイオリニストの樫本大進さんが学んだMusik Hochschule Lübeck(リューベック音楽大学)の中にちょっとお邪魔したり、市庁舎の内部を見学したりと充実した1時間でした。

Horstentor Horstentor

夕方ハンブルク空港から帰国の途につきました。短かい滞在でしたが2都市連泊で大きな移動がなく、観劇だけでなく開港祭や市内観光もたっぷり楽しめた旅になりました。

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