Tanz der Vampire in Berlin観劇記(2016年7月)

Theater des Westens in Berlin

2016年7月、巷ではサッカー欧州選手権準決勝ドイツ対フランス戦で盛り上がっている中、ドイツ・Berlin(ベルリン)のTheater des Westensにて”Tanz der Vampire”(ダンス・オブ・ヴァンパイア)を観劇しました。”Tanz der Vampire”はドイツ各地で何度も上演され、お馴染みのキャストが出演することが多かったのですが、今回はオーディションによりメンバー一新となったこと、そして今やドイツ語圏ミュージカル界で最も人気のある俳優の一人で日本でもお馴染みのMark Seibertが、Graf von Krolock(クロロック伯爵)を初めて演じることでファンの関心を大いに集めていました。当初はMarkの声やイメージと伯爵役は合わないのではないかとの声や、イタリア人でこれがドイツ語圏ミュージカル初出演になるSarah役のVeronica Appedduのドイツ語発音に厳しい意見が見られましたが、2016年4月の開幕後はMark伯爵の予想外のはまり具合とVeronicaの美声を賞賛するコメントが相次ぎました。そうなると見てみたいのがファンの心情。当初の旅の計画では”Tanz der Vampire”観劇は考えていなかったのですが、急遽日程を調整し、Mark伯爵の出演終了となる7月10日を目前にベルリン入りを果たしました。

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Tanz der Vampire
2016年7月7日(木)19:30公演

メインキャスト
Graf von Krolock: Mark Seibert
Sarah: Veronica Appeddu
Alfred: Tom van der Ven
Professor Abronsius: Victor Petersen
Chagal: Nicolas Tenerani
Magda: Merel Zeeman
Herbert: Milan van Waardenburg
Rebecca: Yvonne Köstler
Koukol: Paolo Bianca

ソロダンサー
Kevin Schmid, Máté Gyenei, Astrid Gollob

ソリスト
Sander van Wissen, Michael Anzalone

ダンスアンサンブル
Joe Nolan, Stefan Mosonzi, Thomas Höfner, Veronika Enders, Katie Allday, Vicki Douglas, Nicole Ollio

コーラス
Andrew Chadwick, Alex Hyne, Pascal Höwing, Marina Maniglio, Anja Wendzel, Samantha Harris-Hughes, Sanne Buskermolen, Noah Wili

指揮
Shay Cohen

平日かつ上演時間にサッカーの試合が重なったこともあってか、1階席はかなり埋まっていたものの、2階席は人影もまばらなTheater der Westens。前方席はあまり段差がないのですが、センター辺りは席配列が千鳥になっていて、思ったよりも観やすかったです。

お馴染みのオープニングの音楽、以前より音の厚みが減ってアレンジが簡略化されたように感じました。年々オーケストラの人数が減らされるご時世だけに、疑心暗鬼でそう思っただけかもしれませんが。

雪景色の中登場したAlfred役のTom van der Ven、背が低く、ちょっと間抜けっぽいというか幼いというか、大きな口にぽちゃっとした唇が可愛らしい系のAlfred。目をくりっと見開き、口をぱかっと開けて驚く顔が特徴的。何かに似ているとずっと考えて思い当たったのが、『パタリロ!』のタマネギ部隊のひし形の口! musicalzone.deに彼のインタビュー記事が掲載されています。Tomは母国オランダで大学卒業を間近に控えたところでTanz der Vampireのオーディションに合格したそうで、先日無事に卒業資格を得たとのこと。Alfred役がプロとしての初舞台です。

Professor Abronsius役のVictor Petersen、2015年夏にミュージカル俳優の学位を取得したばかりのピチピチの青年がよく老教授に扮しているものだと驚きます。ただやはり若さは出るもので、今まで見た教授達に比べると、まだ発展途上のような印象を受けました。教授の見せ場の早口ソングもやや印象が薄かったです。

Magda役のMerel Zeemanはスリムな体型で、Magdaの見せ場(?)の「小さくない、大きい・・・」にやや説得力がありませんでした。胸にシャドウを入れているMagdaは初めて見たような・・・。色気は乏しかったですが、田舎のケチな宿屋の主人を上手く利用してちょっといい思いをしているしたたかな女といった感じでした。

Sarah役のVeronica Appeddu、プロモーション映像でのドイツ語発音はかなり怪しかったのですが、大分特訓したようでした。鼻にかかったような甘めの良く通る声、聞き心地は良かったです。印象としてはAlfred同様幼い感じ。少女から大人の女性に開花する妖しさというよりも、もっと健康的でいたずらっぽく、うぶな男の子をからかって遊んでいるちょっとおませな女の子に見えました。Mark伯爵と身長差がかなりあったことも幼く見えた一因だと思います。Sarahが伯爵に抱く感情にも、危険な香りを放つ食虫花の魅力に抗えずに引き寄せられていくような陶酔感はあまり感じられなかったです。個人的にはSarahにはもう少し大人びたコケティッシュな色気を求めたいところですが、健康的なタイプのSarahもありでしょう。入浴場面でタンクトップ型の肌着のラインが肩口にしっかり見えてしまったのが残念。ところでVeronicaとTom、どことなく顔立ちが似ていると思いませんか?

Tom van der Ven und Veronica Appeddu
Copyright: Stage Entertainment

Herbert役のMilan van Waardenburg、ファンの評価が高かったので是非見たいと思っていました。Herbertは日本ではセクシー衣装を披露しますが、ドイツ語圏では貴族らしい服装で通しています。素顔は美青年タイプではないですが、妙に愛嬌があってお茶目なHerbert。ちょっと女の子っぽい感じがしました。出番は少ないですが強烈な印象です。彼も卒業したばかりでこれが初舞台だそうです。彼のファンになってしまった方、soulsistersmusicallife.wordpress.comのインタビュー記事(英独併記)、必読です。

Koukol役のPaolo Biancaはイタリア出身。そのせいか動きが大きくて活きがいいKoukolだと感じました。Koukolに若さを感じたのは初めてです。Rebecca役のYvonne KöstlerとChagal役のNicolas Teneraniは役柄に相応しいどっしりした体格と声。

そしてGraf von Krolock役のMark Seibert、キャスト表を見ていたのにもかかわらず、入浴中のSarahの前に現れる最初の登場場面では「本当にMark?」とまじまじと眺めてしまいました。Markの今までの役柄はほぼ本人の素材そのものを活かした姿でしたが、伯爵姿は髪型とメイク、顔色が素顔とかけ離れ、かつ声も低めで重厚な感じなので、プロモーション映像で見ていたにもかかわらず、直前でキャスト交替したのではと疑いそうになりました。長身にマントを纏いゆっくりと舞台を去る横顔は堂々とした威厳に満ちており、吸血鬼達のトップに君臨するに相応しい存在感。Mark自身が持つ育ちの良さを感じさせる立ち居振る舞いが、伯爵を演じる上でプラスになっています。”Unstillbare Gier”のロングトーンも力強く響き、気持ちよく聞かせてくれました。舞踏会のダンスシーンでは横顔にいつものMarkらしい笑みが垣間見られましたが、あくまで伯爵が見せる上品な微笑で、この後に繰り広げられる大捕物を予見しているかのような余裕を感じました。良い意味でいつものMarkとは異なる印象のKrolock、本人にとっても新しい自分の可能性を知る機会となったことでしょう。まだまだ若いMarkなので、この先きっとまた”Tanz der Vampire”出演の機会も巡ってくると思います。本人も今回の出演を終えた直後にFacebook上で再演への意欲を覗かせていました。

今回の公演はツアーと言っても舞台装置は大半が以前のプロダクションで使用したものを流用していると思われます。宿屋のセットは勿論二階建て。場面転換時に盆の上で回転する迫力は見物です。昨今映像の多用が進み、物理的な舞台機構が削減される傾向がありますが、物体が持つ質感は映像で簡単に代用することは出来ません。昔は全てセットだった城門は今では扉と装飾の一部以外は映像に置き換えられていて、いささか寂しい感じがしましたし、貴族の肖像画も一列になり、舞踏会の大広間も吊り物がやや減っていたように思いますが、まだまだ十分見応えがあります。願わくばヴァンパイア達が見せる豪華な世界観に更なる削減は持ち込まないで欲しいものです。

久々に見たドイツ語圏”Tanz der Vampire”のダンスシーン、やはりバレエの素養があってのダンスは所作の美しさ、動作の滑らかさが違います! マント姿の男性ヴァンパイアが赤いブーツのSarahを次々とリードしていく”Die roten Stiefel”(赤いブーツ)の場面は言うに及ばず、悪夢の場面の怪物じみたダンサー達の動きもバレエという古典が身についている上での現代的な表現なので、作品全体が寄って立つ古典的な吸血鬼伝説の世界観に上手く馴染んでいます。私自身はバレエやダンスの経験が全くないので、あくまで素人目線での感想でしかありませんが、”Tanz der Vampire”の世界が持つ色香を表現するには、クラシックバレエの柔らかでしなやかな動きが不可欠だと思います。日本で次に上演する際は、バレエ経験者を中心に美しい動きに魅了されるようなダンスシーンを見たいです。

公演が終わりロビーに出ると、いつもはお喋りなドイツ人達なのにまるでお通夜のような雰囲気。サッカー対仏戦試合終了間際で2対0とまさかの敗色濃厚な展開が原因でした。劇場のある通りの向こう側にあるカフェやレストランから怒号が響き渡る中、あきらめ顔で出演者達を待つ楽屋口のファン達。ドイツが勝ったらなかなか出てこなかったかもしれない出演者達も、楽屋のテレビで試合終了を見届けることなく早々と家路に着く人が多かったようです。Markも心なしか元気のない様子でしたが、ファンの求めに応じて一緒に写真に収まったり、サインをしたりとファンサービスに努めていました。出演者には劇場側からカードが支給されており、楽屋口で気軽にサインを入れて渡してくれます。Tanz der Vampireツアー公演で販売しているパンフレットの写真は以前の公演のものなので、新キャストの扮装写真が欲しい場合はこのサインカードを貰うのが一番です。Markも分厚いカードの束を手にしていました。

短いベルリン滞在でしたが、久々にTheater des Westensの歴史ある華麗な劇場空間で”Tanz der Vampire”の世界に浸ることが出来、満足でした。若さが目立つ新キャストも慣れればまた違った味わいです。1997年のウィーン初演から新陳代謝を繰り返しながら長く愛される”Tanz der Vampire”、ドイツ語圏ミュージカルファンにとっては必ず押さえておくべき作品だと改めて感じました。上演20周年に当たる2017年には、スイス・St. Gallen(ザンクト・ガレン)での上演も予定されています。生誕の地ウィーンでも何らかの記念イベントがあるのでしょうか。

Theater des Westens

Theater des Westens

ところでMarkのサイトに発表されていた出演日程で、彼の前楽に当たる7月9日が土曜日にもかかわらず休演となっていることが不思議でしたが、その答えはMarjan ShakiとLukas Permanの結婚式への出席だったことが判明しました。MarjanとLukasのFacebookにウェディングケーキを前にした幸せ一杯の笑顔の二人が載っています。末永くお幸せに!

Tanz der Vampire: Das Musical

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