“Tanz der Vampire”観劇に先立ち、Ronacherのバックステージツアーに参加する機会がありました。安全上の理由から参加者は各回限定25名、約1時間のツアーは参加費5 EUR、ドイツ語のみ。ツアー冒頭で、個人的に楽しむための写真撮影はOKであるものの、ネットへの掲載はNGとの説明がありました。
上着や荷物をクロークに置いた後(無人のカウンターに置くだけなので無料です)、まずは客席でRonacherの歴史を聞きました。その間、雪山の風景が描かれた緞帳に白や赤の照明が当てられたり、スタッフが舞台の上を動き回ったりと、夜の公演に向けて準備が進められています。
最近茶色に塗り替えられたRonacher外観。
Ronacherの歴史は、Vereinigte Bühnen Wien(VBW、ウィーン劇場協会)のサイトにも掲載されています。1871年から1872年にかけてジャーナリストのMax FriedländerとBurgtheater(ブルク劇場)の前支配人Heinrich Laubeが起こした私企業によって建てられたRonacherは、庶民のための劇場として1872年9月15日にFriedrich Schiller(フリードリヒ・シラー)の”Demetrius”で幕を開けました。しかし開場後12年で火事に見舞われてしまいます。劇場としての再開は新消防法により叶いませんでした。1886年、Anton Ronacherが廃墟を買い取り、大きなダンスホールとホテルを併設して、1888年にEtablissment Ronacher(Etablissmentはナイトクラブやキャバレーの意味)として再オープンします。平土間やロージェにはテーブルが置かれ、飲食や喫煙も可能でした。しかしAnton Ronacherは経済的な事情から、2年後には劇場の経営権を手放します。レビューやオペレッタ、ダンスや歌、バラエティーショーの劇場として人気を集めた劇場は、ユダヤ系のアーティストの出演禁止を契機に、1930年代をピークとして徐々に衰退していきます。戦後は被災したBurgtheaterの代わりやバラエティーショーの上演劇場として使われた後、1960年に閉鎖され、ORF(オーストリア国営放送)のスタジオ等として利用されますが、1976年にORFが利用を止めてから10年間は放置されていました。1987年にVBWが劇場を取得し、1988年から1990年にかけて”Cats”と二つのオペラの初演が行われました。1993年に軽度の改修を経て再オープンし、当初は貸館事業に供されました。1997年9月からは外国からのツアー公演会場やパーティー会場として、また”Chicago”や”F@lco – A Cyber Show”の上演劇場として使用されました。その後Theater an der Wienがオペラ劇場になることを受けて、ミュージカル劇場として使えるように2005年から2008年にかけて大規模な改修が行われ、2008年6月30日に”The Producers”で新生Ronacherとしてのお披露目がなされました。
説明終了後、ガイドの女性スタッフと共に、舞台上へ。舞台と客席は鋼鉄製のカーテンで仕切られるようになっています。通常の緞帳の背後にあって客席からは見えない鋼鉄製のカーテンは13~14トンもの重さがあり、普段は20秒かけてゆっくりと下ろされますが、火事やパニック等の非常時には6秒で下ろすことができるそうです。舞台上にはカーテンが降りる位置に赤線が引かれ、スタッフや俳優たちは決してこの線上に立たないように気をつけているそうです。とにかく安全には非常に気を遣っているとの印象を受けました。舞台中央は赤線を境に前方と奥、そして両袖に分かれ、舞台奥には盆があります。盆は舞台上に載っているだけなので、上昇や下降は出来ません。改装前のRonacherでは、舞台の後ろに控え室やメイク室等がありましたが、その部分を移動し、奥行きを広げました。ベッドと舞踏会のシーンに登場する階段は、両袖に収納されています。舞台奥に置かれていた本棚のセットは、普段は別の場所にあるそうですが、4月24日まで”Jesus Christ Superstar”の公演があったため、イレギュラーで置かれていると説明がありました。舞台袖には俳優やスタッフが出入りする扉があります。
客席奥のモニター室には、常時2名が詰めています。一人は俳優のマイクの音量調節、もう一人はオーケストラの音響を担当しています。Ronacherのオケボックスには音量が大きい打楽器は入っておらず、100名以上を収容できる稽古場でモニターを通して指揮を見ながら演奏しているそうです。この2カ所で演奏された音を音響係が丁度いいバランスになるよう、ミックスして流しているとのことでした。
舞台上手袖にあるモニター席には細かい指示が書き込まれた総譜が置かれ、全ての進行が秒刻みで管理されています。モニターの右横の壁面に上下に並んだ二つの黄色いケースには、AlfredとSarahの牙が入っています。ラスト、舞台に出る前に、ここから小道具を持って行くことになります。モニター間に貼られていた赤地に白い円、その中央に黒のブレッツェルマークのステッカー、Berlin(ベルリン)の”The Producers”の宣伝を思い出しました。
続いては舞台奥上部へ移動。低い天井はしっかりとした梁で支えられています。案内された先にあった黒い枠に縁取られた小さな透明の箱は、伯爵が瞬時に移動するために作られたリフト。動力はなんと人力! 2~3人がかりで左右のワイヤーを引っ張って持ち上げます。その都度異なるタイミングやスピードの調整が必要なので、自動化はできないそうです。舞台セットは作品ごとに全く変わるため、次回作”Sister Act”ではまた違う機構が用意される予定です。
RonacherにはRaimund Theaterのような深いせりはなく、セットは舞台上部に収納されています。収納スペースの関係上、奥行きを持たせることができないため、宿屋のセットは側面から見ると薄べったく見えます。舞台奥上部から床面を見下ろすと、雪が積もった宿屋の三角屋根が目の前をぐんぐん上昇して行きました。屋根の下から宿屋の2階、1階と続いて現れ、最後は床部分も我々の頭より更に上の位置に上がっていきました。
次は奈落へ移動しました。天井に当たる部分につながるダクトは、舞台の床からピンポイントで霧を吹き出すためのものです。ダクトの横には銀色で円筒形の霧発生装置があり、バケツが複数置かれていました。
階段を上がり、白い壁の狭い廊下を進むと、壁にかけられたレターラックのような縦5列横4列の白いポケットに、マイクとバッテリーのセットが一人分ずつ収められていました。ポケットの上に各マイクの使用者のネームタグが貼られています。カツラを使うキャストは最も集音効果が高い額にマイクを固定しますが、地毛で出演しているAlfred役のLukas Permanは、耳の横にマイクをつけているとの説明がありました。頻繁にカツラを替える場合も、額ではなく耳の横につけるそうです。
マイクセットの横の戸口をくぐると、大きな鏡台と沢山のカツラが置かれたメイク室がありました。カツラは手入れがし易いことなどから、全て人毛で出来ています。誰が担当しても同じメイクを再現出来るように、鏡にはメイク後のイラストが貼られています。
次の場所へ移動中、Lukasの楽屋前を通りました。”Lukas”と”Alfred”のネームプレートが貼られた白いドアには、日本語のメッセージが書かれたミニサンタの立体クリスマスカードと、東宝の「ダンス・オブ・ヴァンパイア」と「エリザベート」のチラシが飾られていました。
最後に案内された衣装部屋には、吸血鬼の赤や黒のゴージャスな衣装が、短時間での着替えに対応できるよう、出番に合わせて並べられていました。衣装の前に置いてある黒い椅子には、大きなネームタグが貼られています。この椅子は座るためのものではなく、名前が書かれている役者さんが使う小物を載せるために置かれているそうです。
Ronacherのバックステージツアーは2011年5月現在、火・木・土曜の16:45と日曜の15:15に行われています(変更の場合あり)。参加費は一人5 EUR、子供や学生、Musicalclub会員は割引価格3 EUR。チケットはVBWの劇場(Theater an der Wien、Raimund Theater、Ronacher)窓口他、オンラインでも購入可能です。バックステージツアーはRaimund Theaterでも火・木・土曜の16:45と日曜の15:15に行われています。
Spaさん、こんばんは。早々に梅雨に入ってしまいましたがお元気でお過ごしでしょうか?
貴重なバックステージの詳しい内容をありがとうございます。
以前、別の劇場のツアーに行ったときも「セットはこうなってるんだ~~~♪」とわくわくしたことを思い出しました。
Lukasたちの楽屋の前を通れるなんて素敵ですね。
いよいよRonacher城も今月末までとのこと。今更ですが一度いっておきたかったです。
りでさん、お久しぶりです。最近Bloggerの調子が悪くてログイン出来ず、バックステージツアーの記事もなかなかアップできなくて時間がかかってしまいました。このツアー、なかなか人気のようで、当日ガイドさんになんとか入れないか頼んでいる人がいましたが、満員だからと断られていました。
バックステージツアーでは、いつも客席から観ている舞台の上に上がれることも魅力の一つだと思います。Theater an der Wienのツアーは"Elisabeth"の時に行きましたが、まだRaimund Theaterのツアーに行ったことがないので、次回は是非行ってみたいです。