宝塚花組公演『ポーの一族』観劇記(2018年1月)

Takarazuka New Year 2018

2018年観劇初めは宝塚花組公演『ポーの一族』。萩尾望都原作の少女漫画の古典的作品の初舞台化、明日海りおさんのエドガーのビジュアルに期待を膨らませつつ、大劇場に足を運びました。以下内容に触れていますので、未見の方はお気をつけ下さい。

開演直前に幕が上がり、無数の薔薇が散りばめられた背景にちょっと古めかしい字体で『ポーの一族』のタイトル文字が大きく登場。昔の少女漫画の表紙を思わせる演出でした。1964年3月、ドイツ・フランクフルト空港に集まった4人の男女は、バンパネラ研究家とスピリチュアルジャーナルの編集長。彼らの先祖が残した文書に現れる、変わらぬ姿で長い年月を生きている謎の少年少女の正体は・・・? 原作を知っていてもわくわくさせられます!

エドガーは舞台上でも青い瞳! 髪型といい衣装といい、『銀河英雄伝説』の時も思いましたが、宝塚の再現率恐るべしです! 外見も勿論ですが、妹のためになら全てを投げ打つ気性の激しさ、この世ならぬ者になってしまった哀しみ、そして冷たさと孤独に苛まれつつ温かな愛を求める明日海エドガーに、心揺さぶられました。

宝塚はたまに観るものの、出演者についてはほぼ知識ゼロ。今回もビジュアル以外全く予備知識なしで行ったので、トップ娘役がアランかメリーベルをするのかと思っていたら、シーラ役の仙名彩世さんがトップだと途中で知ってびっくり! 原作では脇役のシーラがヒロイン扱いになったのは、仙名さんに合わせてのことだったのでしょうか。確かに仙名さんの気品ある美しい姿はシーラにぴったりでした。エドガー少年が村の外から来た大人の女性であるシーラに憧れを抱く箇所は、トップ同士の見せ場だったのですね。アラン役の柚香光さん、メリーベル役の華優希さんも原作漫画から抜け出たかのような雰囲気! しかし原作ではヒロインでも、宝塚的には下級生が演じる役ということでキャスト表でメリーベルの順番は遥か下、パンフレットでも大きな写真がないのは残念でした。スリーショットがエドガー、アラン、シーラなのも原作ファンにとってはヒロイン不在で妙な感じがしてしまいました。

各時代を行きつ戻りつする原作は、最初に読んだ子供の頃は取っつきにくく思いましたが、舞台化に際してはエピソードが時系列順に並べられており、エドガーとアラン、メリーベルに遭遇した人々やその子孫が年代別の出来事を上手く整理して説明してくれたので、分かりやすくなっていました。『ポーの一族』の舞台化を30年越しで夢見ていたという演出の小池修一郎先生、エッセンスの抽出の仕方を心得ていらっしゃいます! 最後に読んでから随分時間が経っていたので、細部はかなり忘れていましたが、「ああそうだった!」と懐かしく思い出されるエピソードが沢山散りばめられており、『ポーの一族』の世界観を堪能出来ました。

ポーの村に迷い込んだグレンスミスのエピソードは、物語の導入として語り中心で簡単にまとめられていました。ちょっとややこしいですが、順番的にはメリーベルがバンパネラになった後の話なのですよね。

森に捨てられたエドガーとまだ赤ん坊のメリーベルが老ハンナに拾われ、バラの館での幸せな暮らしを経て、ポーツネル男爵とシーラの婚約式を見てしまったために、バンパネラの一族に加わることをエドガーが約束させられる前半は、ストーリー上アランの出番がないので、冒頭の全員紹介的なナンバー『ポーの一族』だけの登場だろうかと心配になりましたが、一幕後半でアラン再登場。余談ですが、『ポーの一族』の腕をかくかくさせる振付は、ロボット的でちょっと可笑しくなってしまいました・・・。

館の住人達がバンパネラであることを知った村人達により、老ハンナが杭を打たれて消滅する場面、スモークが吹き出して次の瞬間服だけ残されているマジックのような演出が素晴らしかったです! 大老(キング)ポーによって一族に加えられたエドガーが、混乱の中ポーツネル男爵夫妻と逃げ出した後、3日間馬車の中で眠り続ける場面、「ゆうるりと」身体が変化していく歌が印象的でした。この言葉は漫画から取ったのですね。

コベントガーデンで物売りや市民が歌う場面、『モーツァルト!』のザルツブルクの市場を思い出しました。ただ歌詞の中で魚、肉、野菜、果物と総称が並べられ立てられるのにはあまり詩的な響きを感じず、エドガーが現れるまでの前振りの群舞も冗長。宝塚的にはアンサンブルの見せ場が必要なのは分かりますが・・・。場面後半、薔薇のとげで指を怪我した花売りの少女の血を見て衝動を抑えきれずにその生気を吸い取ってしまうエドガーにはどきどきさせられました。

バンパネラから遠ざけるために養女に出されたメリーベルと、実はエドガーとメリーベルの腹違いの兄であるエヴァンス伯爵家の長男オズワルド、そしてオズワルドとは父親違いの兄弟でメリーベルとは血縁関係がないユーシスとの三角関係は、登場人物としては一応出てくるものの、台詞はなく完全にナレーションだけの説明。大胆なエピソードカットは上演時間の都合とメリーベルがトップ娘役でないゆえの配分かと思いますが、二言三言登場人物による台詞を入れても良かったように思いました。

メリーベルを一族に迎え入れたエドガーが、ポーツネル男爵夫妻と4人でブラックプールの町に現れる物語の中盤から後半、自信家で若くハンサムな医師クリフォードと彼の恩師の娘で婚約者のジェインを一族に加えようと画策する男爵夫妻、孤独な魂を持つアランに共鳴するエドガー、幼い日の恋人にそっくりなメリーベルに惹かれるアラン、しかし彼と将来を約束することが出来ないメリーベルといった様々な思惑が入り乱れ、話が進んでいきます。当たり前と言えばそうですが、誰かの言動が別の人物に影響し、その結果何らかの行動が起きるという因果関係が密に重なって物語が紡がれており、非常に厚みを感じました。

前半で明日海エドガーを堪能したところに加わる柚香光アランがこれまた秀逸! 好きでもない伯父の娘との結婚を勧められ、心のよりどころだったはずの母親は妻子ある伯父と深い仲にあることを知り、更にはずみで階段から突き落とした伯父が死んだものと思い込み追い詰められていく様子は、見ているこちらも息が詰まるかのようでした。

バンパネラが鏡に映らない設定は後半で重要な役割を果たしますが、台詞での説明になっていたので、視覚的に訴えかける効果で見せてくれたらと思いました。バンパネラ達の怯えを誘う雷鳴には非常に迫力がありました。観客席でも雷が苦手な方は相当怖い思いをされたのではないでしょうか。後半のバンパネラ達の消滅シーンは、老ハンナの時のようなトリックではなく、アンサンブルにかつがれて壁の向こうに消える等、宝塚らしい人海戦術的な演出だったので、ちょっと物足りなく感じました。一瞬にして灰になってしまう無情な儚さこそがバンパネラの哀しみなのですから! 特にメリーベルの最期は、原作通り壁にすがるようなポーズでエドガーに助けを求めつつ背後から撃たれて消滅して欲しかったです。

エドガーがアランをバンパネラの世界に誘う場面は、原作の絵を思い出させる大きなカーテンがふわりと揺れる窓が嬉しかったです。クライマックスの燦めく星空を背景にエドガーとアランが遙かな時間と場所を越えた旅に出る場面、背景に紛れたクレーンが二人を浮遊させる仕掛けは見応えがありました。しかも宝塚なのに少年同士のツーショット! ファンタジックに盛り上がって本編終了かと思いきや、続く最後の場面で20世紀半ばのケルンのギムナジウムに転入した二人の姿が描かれ、彼らの旅が現代まで続いていることが示される幕切れは、なかなか通好みでした。

今回の舞台化ではエドガーとアランの二人が共に旅をする以前の話が中心なので、バンパネラになってからの二人が好きなファンにはやや物足りないかもしれませんが、私としてはエドガーとメリーベルの物語がやはり一番好きなので、今回の構成には納得です。

音楽は太田健氏。作曲者が気になって後でパンフレットをチェックしたほど、物語の世界観に合っていてとても素敵でした。観劇後に制作発表会の動画で改めて聞き直した『ポーの一族』と『哀しみのバンパネラ』、ミステリアスで不穏な旋律が激しく盛り上がり、情熱的に展開する楽曲は耳に残りました。

観劇後にTwitterや歌劇団公式サイトに寄せられた感想を幾つか見たところ、原作を読んだことがない、もしくは舞台化が決まってから初めて読んだ人が多いようでびっくりしました。『王家の紋章』のように長期連載が続いている訳ではないので、下の世代に伝わりにくいのかもしれません。私自身も久しく触れていなかった『ポーの一族』ですが、2016年に40年ぶりに発表された新作『春の夢』を掲載した『月刊フラワーズ』が完売し、雑誌としては異例の増刷になった時は、今でも多くのファンを魅了している作品であることを実感しました。宝塚での上演をきっかけに名作が再び脚光を浴びるのは大変喜ばしいことです。

思い起こせばその昔、旅行準備のために入手した『地球の歩き方』の別冊に「ミュージカル『ヴァンパイアの舞踏』」と紹介されていた”Tanz der Vampire”に興味を惹かれたのは、元祖吸血鬼のドラキュラ伯爵ではなく、『ポーの一族』の耽美な吸血鬼の世界が脳裏に浮かんだからでした。人生思いも寄らないところで繋がっていくものです。

メリーベルの髪の毛は沈丁花に絡まらず、エドガーはアランの靴紐を結ばない『ポーの一族』でしたが、大満足な観劇でした!

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