Lulu – Das Musical 舞台写真と劇評

2010年5月15日、オーストリア・Innsbruck(インスブルック)のTiroler Landestheaterで新作ミュージカル”Lulu – Das Musical“が初日を迎えました。Maté KamarásがJack the Ripper(切り裂きジャック)役で出演するということで、日本から駆けつけたお客さんもおられたでしょう。劇場サイトに41枚もの舞台写真が掲載されているので、是非ご覧下さい。何と言ってもLulu役のLucy Schererが素晴らしいです! 白いドレスにロングヘアの少女時代も、赤いショートカットのセクシーな女性に成長した姿も、写真を見るだけで物語が感じられます。1920年代風の衣装や前衛的な舞台美術にも、大変そそられます。

Tiroler Tageszeitung紙によると、このミュージカルは作曲家Stephan Kanyarと、1992年にAlban Bergの同名オペラを演出した経験がある脚本家Brigitte Fassbaenderが、1年がかりで作り上げたそうです。物語の各段階、登場人物はFrank Wedekindの原作に倣っているものの、テキストは独自のものになっているようです。監督のPierre Wyssも”Lulu-Szenen”(Luluの場面)という舞踏作品を手がけたことがあり、その頃からミュージカル化の構想を持っていたとあります。

最初の場面では、胡散臭い老人の傍らで、13歳のLuluが好色な男達を前に路上で踊っています。何の考えもなく、計算もなく、ただダンスへの欲求とこみ上げる喜びに身を任せるLuluの姿は、天真爛漫で非常にエロティック、無邪気で魅惑的、甘くそして道徳とは無縁です。彼女に関わった男達は転落し、死体となって横たわり、彼女は次の獲物を求めて去っていきます。Dr. Schönが彼女に名前を与え、それによって彼女にアイデンティティーが生まれたことからLuluの上昇が始まります。そしてDr. Schönを殺した時、彼女は急激に墜ちていきます。「人生がこんなに素晴らしいものだとは知らなかったわ」と言うLulu。永遠に子供のような女性であり続けたかった彼女でしたが、徐々に人生の厳しさを知るようになります。それでも自分自身に向ける眼差しは冷静です。「私のことなんか、誰も気にしていないのよ」。

Luluを取り巻く人間は、年老いたSchigolch、写真家Schwarz、Dr. Schönとその息子Alwa、同性愛者の伯爵令嬢GeschwitzにGoll老人と、多彩な顔ぶれです。Jackと名乗る麻薬中毒者が彼女と交差し、物語の語り手となり、そしてLuluが1920年代のベルリンからパリ、ロンドンへと逃げ、かの地の売春街で果てる物語の最後に、その男は切り裂きジャックになります。彼の死への衝動は、彼女の死への憧憬と合致しています。監督のPierre Wyssと振付師Enrique Gasa Valgaは、難度の高い振付の中にこの位置関係を分解してみせ、彼らの多重性を上手く処理しています。細部を生き生きと描くWyssの演出は、登場人物を明確に定義づけ、青少年の鑑賞にも堪えるレベルを保っています。Michael D. Zimmermannsの衣装は、エレガントな1920年代を印象づけています。

Helfried Laucknerの凝った舞台美術は、Johann Kleinheinzの照明とぴったり息が合っています。スリットが沢山入った濃い暗赤色の円筒が開くと、街路や居間、カジノ等の光景が現れる様子は何処か映画のようであり、内側と外側からLuluの官能の舞台を覗き見る仕掛けになっています。

劇評も良く、チケットも完売の日も出ているからか、劇場サイトでは早くも2010年10月22日からの再演が告知されています(キャスト未定)。地方劇場では上演日程の発表が遅い場合があるので、観に行く予定がある方は、劇場に直接問い合わせることをお薦めします。

音楽監督:Michael Mader
監督:Pierre Wyss
振付:Enrique Gasa Valga
舞台美術:Helfried Lauckner
衣装:Michael D. Zimmermann
音楽:Stephan Kanyar
脚本:Brigitte Fassbaender
構想:Pierre Wyss(Frank Wedekindの原作による)

キャスト
Lulu: Lucy Scherer
Prolog/Jack: Máté Kamarás
Dr. Schön: Kenneth Derby
Schwarz: Thomas Paul
Alwa: Ansgar Matthes
Schigolch: Dale Albright
Gräfin Geschwitz: Anne Schuldt
Casti Piani: Marc Kugel
Hugenberg: Michael Gann/Holger Kapteinat
Rodrigo: Stefan Salvenmoser/Stanislaw Stambolov
Professor: Krystian Holewik/Michael Lucavec
Tanztheater des TLT

Tiroler Landestheater
Rennweg 2
6020 Innsbruck
Austria
Tel: +43-512 52074
http://www.landestheater.at/


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