ドラキュラ観劇記(2011年9月)

2007年にオーストリア・Graz(グラーツ)で上演されたFrank Wildhornの”Dracula”。その日本初演版『ドラキュラ』を2011年9月17日に大阪・梅田芸術劇場で観劇しました。

Graz版は都合がつかず観に行けなかったので、実際の舞台を観るのは今回が初めて。元宝塚のゴールデンコンビ、和央ようか・花總まりペア復活のせいか、梅芸の会員抽選先行がなかったこととチケットの価格設定(東京SS席20,000円、大阪19,000円!!)にまず驚きました。一般発売でもあっという間にチケットがなくなり、追加公演も出る人気ぶり。深い青に和央さんのドラキュラがアップになっているチラシはなかなか素敵だと思ったものの、正直話題先行型のような気がして、あまり期待はしていなかったのですが、いい意味で裏切られました! DVDを楽しみにしている方は、この先ネタばれがあるのでご注意下さい。

まずは開演前から舞台上に鎮座していた円形の重厚な舞台装置。古色蒼然とした石造りの壁が円に沿って回転すると奥から階段が現れ、カーブを描きながら手前にせり出してくるその上をドラキュラ伯爵が歩いてくる一連の流れが、とても美しく印象的でした。ドラキュラ自身が舞台上にいない時も、高さのあるセットが伯爵の代わりに人間達を見下ろしているような存在感がありました。宙に浮かぶ無数のキャンドルや、床一面を覆う巨大な布、イリュージョンの手法を取り入れた演出等も、ドラキュラの持つ人智を越えた力を視覚的に訴えかけてきました。そこに青や紫、緑を基調にした深い色合いの照明が、神秘的な雰囲気を付け加えています。衣装も染色にこだわったというだけあって、様々な色が複雑に絡み合い、青や黒、茶と一言では表現しきれない色調。クラシックなドレスやスーツ姿の人々の中に、黒を基調としたロックテイストな装いの伯爵が登場すると、そこだけ異質な空間が生まれます。美術、衣装、照明等、視覚的な要素が全て一つのコンセプトの下にまとめ上げられており、舞台の世界観がしっかりしているのが素晴らしかったです。演出の吉川徹さん、プログラムの言葉からもこの作品への熱い思いが感じられました。

Frank Wildhornの音楽は、メインテーマのピアノとストリングスの哀切な調べが印象的でした。CDで何度か聴いていたので、他にも耳覚えのあるメロディーはありましたが、頭の中ですぐに反芻できるほど特徴的なものはなかったです。他の作品で聴いたことがあるように感じるメロディーが多いのも、Wildhorn節の特徴でしょうか。とは言っても音が流れている瞬間は、美しく迫力ある音楽にどっぷり浸れました。オーケストラの人数がさほど多くない割に物足りなさを感じなかったのは良かったです。上垣聡さんの指揮、”MITSUKO”の時もテンポが良く流麗でした。

出演者の中で個人的に一番印象に残ったのは、レンフィールド役の小野田龍之介さん。シルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンクールで入賞された小野田さんを、舞台で初めて拝見しました。滑舌がクリアで、他の出演者の声がくぐもって聞き取りにくい時も、小野田さんの台詞ははっきり聞こえました。難しいメロディーラインを危なげなくこなす歌唱力の素晴らしさもさることながら、虫を偏愛し、ドラキュラと感応する特異なキャラクターの演技には、目が釘付けになりました。わずか2場面しか出演されていませんでしたが、泥饅頭を食べた北島マヤ級の強烈な印象でした!

ジョナサン役の小西遼生さんは、すらっとしたスタイルに、すっとした面差しのイケメンさん。線の細さが、伯爵に手玉に取られる若い弁護士役にイメージぴったり。クリアな声も耳に優しいです。ミュージカルの場合、歌うのにいっぱいいっぱいで演技がついていかなかったり、如何にも芝居がかった演技に出くわすことが少なからずある中、小西さんの演技は自然かつ緻密で、伯爵への恐れや婚約者ミーナを愛おしむ気持ちがよく伝わってきました。伯爵の城で女吸血鬼達に襲われる場面、波打つ布に絡め取られる様が何ともセクシーでした!

ルーシー役の安倍なつみさん、ミュージカル界への異業種参入組にはあまりいい印象がないことが多いのですが、歌も演技もとても良くて驚きました! 特に吸血鬼化したルーシーの迫真の演技にはすっかり引き込まれました。1幕はルーシーとジョナサンがメインのように思えたくらいです。『嵐が丘』は平野綾さんの方で観たのですが、安倍さんのキャサリンも観てみたかったです。

上山竜司さん(ジャック)、矢崎広さん(アーサー)、松原剛志さん(クインシー)のルーシーの求婚者3人組は、皆さんそれぞれ粒が立っていて存在感があり、演技も歌もレベルが高い、そして背も高い! 3人がそれぞれルーシーにアプローチする様はコミカルで楽しく、ヘルシング教授と共にドラキュラに立ち向かう後半は、一人一人の真剣で気迫に溢れた演技に、自分もその場に一緒にいるかのような緊迫感を覚えました。

鈴木綜馬さんのヴァン・ヘルシング教授はさすがの美声! 綜馬さんが老け役メイクをしていると不思議な感じがしましたが、年齢的に出演陣のなかではリーダー格の立場なのですよね。熱が入ると周りが戸惑うのにも構わずにどんどん突っ走る早口な教授のキャラがはまっていました。

ミーナの花總さんはすらっとした立ち姿が美しい! クラシックなバッスルスタイルも素敵でしたが、ラストのシンプルなベージュのロングドレスがとても清楚で素敵でした。歌声ものびやかで綺麗でした。ただ夫になるジョナサンに比べてちょっと落ち着き過ぎな気が。そのせいか、ジョナサンへの愛だけでなく伯爵に惹かれる気持ちもどことなく薄く思えてしまいました。

ドラキュラ伯爵の和央さんは、独特の雰囲気がありました。ドラキュラの周りだけ青と黒に空気が変わるようなイメージです。様々な素材・デザインのゴージャスな衣装を格好良く着こなす姿が美しかったです。カーテンコールで透ける素材のアシンメトリーな黒のマントをふわっと翻す姿が何とも言えず雰囲気ありました(綜馬さんが真似して笑いを取っていました!)。歌も良かったですが、席が遠かったからか、エコーがかかっていたからか、歌詞が聞き取れないことが多かったのが残念でした。如何にも宝塚っぽい台詞回しも気になってしまいました。

ブラム・ストーカーの原作にどの程度忠実なのかは分かりませんが、ストーリーは結構突っ込みどころがあり、説明不足も気になりました。伯爵が最初ぼさぼさ頭でしわがれ声なのは、老人だったのですね・・・パンフレットを見るまで単なる変装だと思ってました・・・。ジョナサンが恐怖体験のせいで白髪になったというのも、「あれ、あんな頭だったかな?」くらいにしか思わなかったので、私のような鈍い人間には台詞ではっきり言って貰った方が分かりやすくて良かったです。ヴァン・ヘルシング教授が、「何でそんなことを知ってるの?」と突っ込みたくなるくらい伯爵の習性を熟知しているのも謎。かと思えば寝室で一人にしたルーシーが伯爵に襲われたというのに、ミーナを一人にして伯爵を探しに行ってしまう抜かりよう。ミーナが伯爵を招き入れたことが決定的に分かる台詞がないのに、伯爵が部屋に入ってしまうのも解せません。更に伯爵がミーナに自分を殺して欲しいと懇願するのにびっくりし、ロミオとジュリエットのようなラストには「えっ」と思わずつぶやいてしまいました。教授やドラキュラを追っていた男性陣はどうなったのかが描かれず、尻切れトンボな思いが残ってしまいました。

また男性も出る舞台で敢えて女性が伯爵を演じるというアイデア自体はいいと思うのですが、やるからには宝塚との違いを感じさせて欲しかったです。和央さんのドラキュラは確かにスマートで格好良かったですが、特に花總さんと二人の場面はそこだけ宝塚を観ているかのようで、作品全体の中ではやや違和感がありました。ルーシーとミーナの二人をドラキュラが襲う場面もビジュアル的にはOKなのですが、女性同士のせいか、吸血という行為がイメージする背徳や官能性が感じられないのが、個人的には物足りない気がしました。

次に観るなら中性的な魅力を出せる美青年の伯爵がいいなあと思いつつも、幕間には迷った2500円もするパンフを帰り際に買ってしまい、公演DVDの予約もしてしまった私でした。

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