ロミオ&ジュリエット観劇記(2011年10月)

2010年と2011年に宝塚星組及び雪組によって上演されたフランス発ミュージカル『ロミオとジュリエット』。その男女キャスト版が『ロミオ&ジュリエット』として早くも登場し、更に2012年秋には本家フランス版が来日公演を行うことになるとは、宝塚版を観たときには思ってもみませんでした。こういう嬉しいサプライズはいくらあってもいいものです!

東京・赤坂ACTシアターは連日立ち見が出るほどの盛況ぶりだったそうですが、大阪・梅田芸術劇場の初日も満員のお客さんで開演前から熱気が溢れていました。1階席中央通路すぐ後ろの列には、演出の小池修一郎氏を始めとしたスタッフや、この日は出演がなかったジュリエット役の昆夏美さん等の姿がありました。1階席前方にはタカラジェンヌも大勢来ていました。

Wキャストの大阪初日は城田優(ロミオ)、フランク莉奈(ジュリエット)、上原理生(ティボルト)、良知真次(マーキューシオ)、中島周(死)の組み合わせ。城田さんのロミオ、最初に登場した時は薄味な印象でしたが、ジュリエットを一途に愛し、そのために全てを捧げる気持ちが強く感じられ、彼の心の一喜一憂に引き込まれました。歌に気を取られて演技がおろそかになるということがなく、ロミオの気持ちを自然にそして細やかに表現する力が素晴らしかったです! フランクさんはどこまでも透明でピュアな、初々しいという言葉が本当に似合うジュリエット。でも可愛いだけの厚みがない声質ではなく、ややハスキーな部分がジュリエットの芯のある強さにぴったりでした。変に演技慣れしていない分、ジュリエットの気持ちを自分自身の自然な感情に乗せて出せるのが、彼女の強みだと思いました。背の高い城田さんが、フランクさんを包み込むように抱きしめる姿がキュート! キスシーンが多いのも、欧州の舞台を観ているようでロマンティック度が高まります。

ベンヴォーリオの浦井健治さんは、小池さんの「若手だがもはやベテラン」という表現の通り、歌・演技・ダンス、全てに安定感があり、しかもそこに安住せずにまだまだ可能性を感じさせてくれる素晴らしい存在でした! しなやかでスピード感があり、キレのいい身体の動き、ロミオやマーキューシオとふざけあうやんちゃな姿、最後まで残り悲劇の全容を受け止めなければならなくなった悲哀、この若さでこうした様々な要素を一人でここまで見せられる役者さんは、そうはいないと思います。『エリザベート』のトートや『ジキル&ハイド』のタイトルロール等、浦井さんで是非観たいです! 『エリザベート』のルドルフ以来、浦井さんは「ウィーンの舞台に連れて行きたい人」リストに入っていましたが、改めて惚れ直しました(笑)。

ティボルトの上原理生さんは、ワイルドな外見とパワフルな声がとても魅力的でした。レミゼで人気が出たというのもうなずけます。これからどんどん活躍してもらいたい魅力的な俳優さんを、また一人知ることが出来て嬉しいです。ジュリエットに思いを寄せながら、彼女の母親であるキャピュレット夫人と関係を持つという設定が、ティボルトのキャラクターに複雑な陰影を与えており、粗暴に見えながら内面は柔らかく傷つきやすい青年の心情が、上原さんの情熱的な歌唱と演技でよく伝わってきました。

マーキューシオの良知真次さんはノーチェックでしたが、細身でしなやかなヘビを思わせる身のこなしが印象的でとても良かったです。同じシェイクスピアの『真夏の夜の夢』の妖精パックがふと思い浮かびました。死ぬときがちょっと元気すぎる気がしたのは、エネルギーがありあまっているから(笑)? 早くに出番がなくなるのが残念でした!

パリスの岡田亮輔さん、ピンクの帽子とジャケットにびっくりしました。思った以上にお笑いキャラなパリス、ジュリエットが嫌がるのもよく分かります(笑)。キャピュレット卿の石川禅さんは、さすがの貫禄ある歌声。ジュリエットの出生の秘密を知っていたことを吐露するソロナンバーでは、最後の一音まで観客の集中度が高まっていることがひしひしと伝わってきました。安崎求さんのロレンス神父、パソコンを見ながらアロマテラピーの実験をしたり、ロミオにメールで連絡したりとなかなか新しいモノ好きですが(笑)、ロミオとジュリエットを何とか幸せに導きたいと願う善意の存在であることには変わりありません。計画を伝える手段が手紙だろうとメールだろうと、擦れ違いは起こりうるし、悲劇を避けることはできなかったロミオとジュリエットの物語に、高度に文明が発達した現代でも、多くの悲劇を解決することが出来ない現実が重なって見えました。

モンタギュー夫人の大鳥れいさん、涼風真世さんのキャピュレット夫人とのデュエットが超豪華! 上品な上流婦人のイメージがぴったりです。涼風さんはさすがの迫力! ジュリエットが不倫相手との子供という新しい設定が、キャピュレット夫人のキャラクターをより立体的にしています。ジュリエットにパリスとの結婚を説得させようとする場面では、女として娘に嫉妬しているように感じましたが、パンフレットによると小池さんにもその意図があったようです。どこまでもピュアな古典的な純愛物語として描くより、こういうドロドロした部分がある方が、現代的で面白いです! モンタギュー卿のひのあらたさん、グレーのロングスーツ姿は一見上品ですが、赤いジャケットにアニマル柄のスカーフのキャピュレット卿と対峙するとイタリアンマフィアのような感じも(笑)。ヴェローナ大公の中山昇さんは、もっとパワフルに前面に出てくるかと思いましたが、思ったより退いた感じ。シルクハットに黒のロングコートの出で立ちも、暗い背景に溶けがちで、視覚的にあまり目立ちませんでした。声量は十分でしたが、時折怒鳴りがちになってしまったのが惜しいところ。乳母の未来優希さんもやや張り上げ気味の部分があったのが少々気になりましたが、コミカルなキャラクターを体当たりで表現していました。

死のダンサーの中島周さん、ダンスの世界をよく知らない私が観ても凄いことが分かります! なめらかでしなやか、するするっとした動きからまとわりつくような質感まで、人間の肉体がこれだけの表現を出来るということに驚きました! 中島さんが登場するだけで、ロミオに怪しくまとわりつく死の影が浮かび上がるようでした。

音楽は打ち込みだと知っていたからか、随所で歌い手と伴奏のテンポが微妙に合わない気がしました。全体的に音楽の方がやや走っているというか、歌い手がもう少したっぷり歌いたい気持ちをセーブして、音楽に無理に合わせているのではと感じる部分がありました。コンマ何秒程度のことだと思いますが、そのときそのときの歌い手の変化を汲み取って、オーケストラに指示を出す指揮者がいない分、演奏と歌が互いの呼吸を読んで一つに溶け合うような一体感がなかったように思いました。フランスでは録音だったそうですが、ウィーンでは生演奏だったので、もし再演があるのならやはり生オケでお願いしたいです。チケット代を考えると、録音はちょっと頂けません。

多くの方がそうだったと思いますが、私もウィーン版や宝塚のような赤と青の衣装やクラシカルなイメージを期待していたので、記者会見で岩谷俊和さんデザインの衣装を観たときは正直がっかりしたのですが、実際に舞台で観ると全体としては意外といい感じでした。ロミオとジュリエットの衣装はちょっとあっさりしすぎかとは思いましたが、モンタギュー家のクロコダイル柄(?)とキャピュレット家のヒョウ柄はなかなか斬新で意表を突いていて面白かったです。浦井さんのベンヴォーリオの、金モールの飾り房が軍服を思わせる衣装と金髪のヘアメイクが格好いい! ヒョウ柄のジャケットと赤のスリムパンツが、肉食系なキャラをイメージさせる上原さんのティボルトの衣装も良かったです。赤いバラでゴージャスに胸元を飾る涼風さんのキャピュレット夫人の衣装も素敵。未来さんの乳母のホルスタイン模様のドレスは微妙でしたが・・・。

古典様式の柱と鉄骨が共存する舞台美術も、こういう世界観だと思えば特に違和感はありませんでした。現代的な衣装や美術に目が慣れると、携帯やメール、Facebookが出てきてもOK。ロミオが女の子達からの留守電を聞かずに消去したり、ベンヴォーリオがロミオに電話するのも、現代なら全然おかしくないです。繰り返し映像化、舞台化された素材に、どうやって新たな命を吹き込むかという視点で考えると、観客が期待するロマンティックで古典的なラブストーリーを王道的に見せることは、宝塚でもうやってしまったので、小池さんとしては全く違う世界を作りたかったのでしょう。好みの問題も大いにあると思いますが、個人的には今回の演出はいつもの小池さんよりも冒険している感じがあって、失礼ながら「隠していた爪をようやく見せたんですか!?」と突っ込みたくなりました(笑)。舞台には常に新鮮な驚きを期待したいので、今回の現代的な演出プランは、個人的にはなかなか良かったです。何より舞台から伝わるエネルギーが凄い! 若いダンサー、キャストの持つ生命力が観客席に向かって押し寄せるようで、胸がどんどん熱くなりました。役者のレベルに作品を合わせるのではなく、作品が要求するレベルに見合うキャスティングを行ったからこそ、こうした素晴らしい舞台が実現するのだと強く思いました。

しばらくは『ロミオ&ジュリエット』の世界に入り浸りの日々が続きそうです(笑)。

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