My Fair Lady観劇記(2016年7月)

My Fair Lady program

2016年7月の旅、ドイツ・Bad Hersfeld(バート・ヘルスフェルト)の野外演劇祭Bad Hersfelder Festspieleで”My Fair Lady”(マイ・フェア・レディ)を観劇しました。Bad Hersfeldの野外演劇祭はドイツでは全国的な知名度があるそうで、オープニングには各界のセレブがレッドカーペットの上を歩き、中世の修道院跡を利用した野外劇場には欧州各国の大使が足を運びます。著名なオペラ歌手やテレビや舞台で活躍する一般人の認知度が高い俳優が出演することでも知られており、ドイツ各地の夏の演劇・音楽祭の中ではステータスが高いイベントです。

Stiftsruine in Bad Hersfeld

去年数年ぶりにBad Hersfeldで観た”Cabaret”(キャバレー)が配役・演出共にとても良かったので、もう一度観たかったのですが、2015年シーズンから芸術祭を率いている新監督Dieter Wedel氏の方針で、ローテーション方式だった公演日程が作品毎に集中的に上演するブロック方式に変更になった関係上、限られた上演期間と旅程を合わせることが出来ず断念。”My Fair Lady”自体を特に観たかった訳ではないのですが、劇場の素晴らしさと指揮者のChristoph Wohlleben氏が作り出す音楽の魅力を再度体験したかったことと、ドイツでは珍しく月曜に公演が設定されていたので、キャストも発表されないうちからチケットを購入しました。

2016年公演のチケットは2015年11月25日に発売されましたが、前売り開始2日後に配信されたニュースレターには、既に残席僅かになった公演もあると載っていました。この演劇祭の長い歴史の中で初めて上演されることになった”My Fair Lady”は特に人気が高かったようで、早々にほぼ完売となり、2月に追加公演日程が発表されました。キャストは徐々に発表されていき、主役Eliza Doolittle(イライザ・ドゥーリトル)をオーディションで選ばれたSandy Möllingが演じることが発表されたのは、2016年4月1日でした。

My Fair Lady

Eliza Doolittle: Sandy Mölling
Henry Higgins: Cusch Jung
Alfred Doolittle: Ilja Richter
Oberst Pickering: Gunther Emmerlich
Mrs Higgins: Gertraud Jesserer
Mrs Pearce: Jessica Kessler

Sandy Möllingは元人気女性ヴォーカルグループNo Angelsのメンバーで、2008年のEurovision Song ContestにNo Angelsのメンバーと共にドイツ代表として出場しました。ミュージカルファンに人気の高いドイツ・Tecklenburg(テクレンブルク)の野外劇場で2014年に上演された”Joseph and the Amazing Technicolor Dreammcoat”(ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート)では、一旦は出演が発表されたものの、”Mary Poppins”(メリー・ポピンズ)への出演が決まって降板したAnnemieke van Damに代わってナレーター役を演じました。千鳥格子のジャケットに黒いスカート、黒縁眼鏡のやり手の秘書風なSandy、彼女を観たのはその時が初めてでしたが、良く通るクリアな声とコミカルな演技が印象的でした。

Sandyには”Joseph”で好感を持っていたものの、日本でよくある元アイドルの異業種参入的な先入観が拭い去れないままに”My Fair Lady”観劇に臨みましたが、私のくだらない思い込みは見事に打ち破られました! 訛りと気が強い下町の花売り娘イライザを活き活きと演じるSandyの魅力的なこと! 生命力に溢れ、失敗にもくじけず、自分が正しいと思うことを信念を持ってやり抜くイライザから片時も目を離せませんでした。男顔でややきつめな印象のあるSandy、仰向けにひっくり返ったフレディに馬乗りになって罵る姿に驚かされた一方で、とても素晴らしい、とても綺麗なを意味する”wunderschön”と歌う時の柔らかく透明感のある声は、まさに鈴を振るようなソプラノで、いつまでも耳に残る美しさ。「あなたの声こそがwunderschön!」と言いたくなりました! Stadt TV Bad Hersfeldの動画では出演者のインタビューの合間に舞台映像が流れます(冒頭20秒間CMが入ります)。Sandyが歌う”wunderschön”のメロディーも2分33秒からのシークエンスで聞くことが出来ます(なまっているのでwunderscheenと聞こえます)。「イライザは普通の女の子、通りを行き交う人々に花を売っている彼女にも勿論夢があって、路上で籠の花を売る代わりに、将来はレディとして店で花を売りたいと思っているのよ。そんな彼女がヒギンズ教授に出会い、教授はピッカリング大佐と花売り娘をレディに変身させられるかどうか賭けをするの」と語るSandy。”My Fair Lady”閉幕後の2016年8月27日付けのSandyのFacebookへの投稿によると、実はWedel監督は彼女と一緒に仕事をする前は彼女に対して幾分懐疑的だったようですが、最終的には彼女と組んだことや彼女の才能に大いに満足したそうです。Sandy自身もそのことを誇りに思っている様子が伝わってきました。

Festspiele Bad Hersfeld – MY FAIR LADY

英語だとロンドンの下町言葉Cockney(コックニー)を話すイライザですが、Bad Hersfeldではベルリン訛りのドイツ語を話す設定になっていました。以前観たWien(ウィーン)のVolksoper(フォルクスオーパー)版では、勿論ウィーン訛りが使われていました。どちらも私の能力では聴き取りは至難の業でしたが、敢えて言うならまだベルリン訛りの方がまだ類推可能でした。

昔の映画の二枚目俳優のようなきりっとした眉が特徴的な音声学者Henry Higgins(ヘンリー・ヒギンズ)役のCusch Jungは、この作品の舞台監督でもあります。経歴を見ると、Patrick Stankeが主演したBerlinの”3 Musketiere”(三銃士)でRochefort(ロシュフォール)を演じていたそう。自信家でやや横柄で傲慢な部分も持ち合わせているヒギンズ教授が、イライザとの丁々発止のやりとりの中でいつしか彼女に惹かれていく様は、何だか可愛かったです。

Oberst Pickering(ピッカリング大佐)役のGunther Emmerlichは、オペラ歌手で司会者としても有名な人物で、Dresden(ドレスデン)のSemperoper(ゼンパー・オーパー)で毎年開催される舞踏会SemperOpernballの司会を10年間務めていたそうです。Gunther Emmerlichの出演は”My Fair Lady”の目玉にもなっていました。にこやかな表情にちょっぴり悪戯な笑顔が混じる貫禄のある白髪の老紳士、なかなかチャーミングなおじさまでした。

ヒギンズ教授宅の家政婦Mrs. Pearce(ピアス夫人)役のJessica Kesslerは、ミュージカルファンにはお馴染みの顔。3月に”MOZART!”のConstanzeのカバーで見たところだったので、全然タイプの違う役にちょっとびっくりしました。JessicaはMark Seibertが主演した”We Will Rock You”のScaramouche(スカラムーシュ)役で見たことがあり、また私は見ていませんが”Tanz der Vampire”でSarahを演じていたので、いつまでも少女役のイメージがありましたが、歳月の流れを感じました。

My Fair Lady, Bad Hersfeld 2016

舞台前面にはオーケストラボックスを囲むようにして緑の芝生が敷き詰められており、中央には白いとんがり屋根に白と緑のストライプ柄のテントが角を中心にして建っていました。客席に入場すると飛び込んでくるこの光景が何ともお洒落! テントの壁が中央から左右に開くと、ヒギンズ教授の部屋が現れます。舞台上手はイライザの父親やその仲間達が暮らす下町となっており、大きな鍋や木箱、台車等が置かれていました。開演前から舞台上を俳優達が行き交う光景に、蜷川シェイクスピアを思い起こしました。

My Fair Lady, Bad Hersfeld 2016

白や淡い色使いが中心の上流階級の気品溢れる衣装は、クラシックな優雅さを見せながらもモダンな香りがする素敵なデザインの宝庫。パンフレットの表紙になっている競馬場の場面では、着飾った人々がオーケストラボックス手前の芝生に客席に向かって横一列に並び、駆け抜ける馬の動きに合わせて右から左へと視線を送ります。イライザの鮮やかな黄色い大きな帽子と、肩から胸と右腕にかけて黄色や白にオレンジの花々があしらわれた黄色のドレスが目を惹きます。

赤いボタンがついた白い胸当てと赤と白のストライプの襟が特徴的な赤い長袖のドレスは、往年の少女漫画の名作『キャンディ・キャンディ』を彷彿とさせるレトロな可愛さ。雪を散らしたような透け感のあるピンクのドレスは、合わせになっている胸元がプチオリエンタルテイストで、これまた素敵なデザインです。衣装担当のElla Späte氏はドイツオペラ界で数々の衣装を手がけた経歴の持ち主で、Dieter Wedel監督とは以前から一緒に仕事をしています。著名な役者の出演を取り付けたり、優秀なスタッフを連れて来たりと音楽祭の改革に力を入れている監督の面目躍如、やはりこういう世界は人脈が物を言うのでしょう。”My Fair Lady Bad Hersfeld”で画像検索すると、舞台写真が結構出てきます。素敵な衣装に興味がある方、是非ご覧下さい!

こちらの動画は演劇祭のスポンサーのビール会社提供の宣伝映像。Dieter Wedel監督と”Cabaret”に出演した大女優Helen Schneiderのインタビューの合間に、”Cabaret”と”My Fair Lady”の舞台映像が挿入されています。キャバレーの歌姫Sally Bowlesを演じているのはBettina Mönch。2016年秋冬シーズンのWien・Ronacherで”Evita”のタイトルロールを務める一人です。

Radeberger Events 2016 # Bad Hersfeld Festspiele • Helen Schneider Dieter Wedel Musical (6min) 4K

初日前日に収録されたSandy Möllingのインタビュー映像では、冒頭にSandyの歌が流れます。以降は時折舞台映像が入りますが、音声は大半がインタビューで歌う場面はありません。子供連れでBad Hersfeldにやって来て稽古に臨んだこと、舞台に立つよりも動物の研究者になりたいと思っている息子のことや、母親と兄弟4人の裕福ではなかった子供時代等を語っています。Sandyの穏やかで柔らかい声が耳に心地良いインタビューです。

Sandy MÖLLING – Die “My Fair Lady”-Festspielstars im Portrait

Bad Hersfelder Festspieleでは毎年出演者に賞が贈られます。Sandyは2016年の観客賞を受賞し、副賞として演劇祭のシンボルマークの修道院跡をかたどった銀の指輪を受け取りました。授賞式の時には既に住まいのあるロサンゼルスに戻っていたSandyは、ビデオで喜びの声を伝えてきました。Bad Hersfelder FestspieleのFacebookで公開されているこのビデオを撮影した自宅の部屋が全ての始まりの場所だったと語るSandy。この部屋で8ヶ月前にオーディション用の歌を録音し、Dieter WedelやCusch Jungとスカイプセッションを行い、演技テストを経て彼女の作品への参加が決まったそうです。観客が示した彼女への共感と賞に選んでくれたことへの感謝の念を述べるSandyの興奮した面持ちが、彼女自身がどれほどこの作品への出演を楽しんだかを物語っています。

大成功を収めた”My Fair Lady”は、2017年夏の再演が予定されています。日程やチケット販売等の詳細は2016年10月下旬に発表予定とのことです。

Stiftsruine, Bad Hersfeld 2016

Stiftsruine Bad Hersfeld
Im Stift
36251 Bad Hersfeld
http://www.bad-hersfelder-festspiele.de/

劇場から徒歩圏内のホテルには老舗の高級ホテルRomantik Hotel zum Sternや新築でリーズナブルな価格設定のB&F Hotel am NeumarktStadt-Hotel Bad Hersfeldがあります。市内中心部までは駅から徒歩15分ほどかかります。バスは本数が少ないので、荷物が大きい場合はタクシー移動が無難です。

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