Die Päpstin観劇記(2011年6月)

“Bonifatius”や”Elisabeth – Legende einer Heiligen”を手がけたSpotlight Musicalproduktionが、1996年に米国の作家Donna W. Crossが発表した歴史小説”Pope Joan”(邦訳『女教皇ヨハンナ』)をミュージカル化した”Die Päpstin“(女教皇)。主演は「M. クンツェ&S. リーヴァイの世界」で来日したSabrina Weckerlin。ドイツ・Fulda(フルダ)のSchlosstheaterにて、2011年6月16日20時公演を観ました。この先ストーリーを結末まで紹介しているので、ご覧になる予定がある方はお気をつけ下さい。

この日は生憎の曇り空。駅前のホテルから劇場に向かう途中、小雨が降り出しました。

Schlosstheater入口。

ロビーには巨大ポスターが。奥行きが非常に狭く、横に長いロビーは混雑していました。客席はほぼ満席。パンフレットは8 EUR、CDは15 EURとリーズナブル。ドリンクメニューのFulda産のロゼのSekt(ゼクト、スパークリングワイン)も3 EURからとお手頃価格でした。美味しそうでしたが、ただでさえ眠い到着日に飲むと途中で寝てしまう危険性が倍増するので、綺麗な色を眺めるだけにしたのが心残りです(笑)。

Die Päpstin
2011年6月16日(木)20時
Johanna: Sabrina Weckerlin
Gerold: Dennis Henschel
Anastasius: Christian Schöne
Marioza/Gudrun: Isabel Dörfler
Fulgentius/Rabanus: Dietmar Ziegler
Vater/Pappst Sergius: Norbert Conrads
Aeskulapius: Daniele Nonnis
Arsenius: Jogi Kaiser
Richhild: Eveline Suter
Lothar: Marcus Kulp
Johannes: Matthias Bollwerk
Kleine Johanna: Fabiola Kaminski
Kleiner Johannes: Finn MC Gilvray

Sabrina Weckerlin演じる主人公Johannaの庇護者で、後に恋人になるGerold役のMathias Edenbornは、残念ながら足の怪我で休演でした。Wien(ウィーン)の”Romeo & Julia”のBenvolio役だった彼を久々に見るのを楽しみにしていたのですが、残念です。幸い既に回復し、6月末頃から再び舞台に立っているそうです。その他はファーストキャスト。Johannaと弟Johannesの子役は日替わりです。

物語は、1250年頃から文献に現れるようになった女教皇の伝説を元にしています。ドミニコ会修道僧Jean de Maillyは、男性のふりをして教皇庁の秘書から枢機卿、そして教皇へと上り詰めたその女性は、ある日馬に乗ろうとした時に男児を産み落とし、当時のローマ法によって馬の尾に足を結びつけられて半マイル引き回された上、民衆によって石を投げられて殺されたと伝えています。また同じドミニコ会修道僧のMartin von Troppauは、女教皇”Johanna Anglicus”の名前や、ドイツのMainz(マインツ)出身で、アテネで学問を修め、ローマで教職に就き、教皇レオ4世の後を継いで2年7ヶ月と4日在位したこと、行列の最中に出産し、自身はその場で絶命したことを記しています。

Donna W. Crossの小説を原作としたミュージカルでは、村の司祭である粗暴な父と異教の神々を信じる地から連れてこられた母との間に産まれた少女Johannaが主人公となっています。旅の途中に村に立ち寄った学者Aeskulapiusにその聡明さを見込まれて、弟Johannesと共に大聖堂付属学校で勉強することになったJohannaは、辺境伯Geroldの館で庇護されることになります。成長したJohannaは密かにGeroldに思いを寄せるようになり、GeroldもまたJohannaを愛するようになります。しかし二人の関係に気づいたGeroldの妻Richildの妬みを買い、皇帝の軍隊を指揮するためにGeroldが領地を離れている間に、JohannaはRichildが勝手に決めた相手と無理矢理結婚させられそうになります。教会で式が執り行われようとしたその瞬間、ノルマン人の集団が人々を襲い、Johanna以外は皆殺しになってしまいます。その場で命を落とした弟Johannesのふりをして生きることを決心したJohannaは、髪を切って僧衣を纏い、男としてFuldaの修道院に入ります。

修道院で勉学に励んだJohannaは優秀な医師となり、修道院長のRabanusに見込まれる存在となります。そんなある日、Johannaの父親が突然修道院を訪れます。息子Johannesだと思っていた相手が男装した娘であることを知った父は、彼女の秘密を暴露しようとしますが、突然の心臓発作により命を落としてしまいます。修道院長RabanusもJohannaが女性であることを知りますが、彼の計らいにより、Johannaは修道院を脱出し、巡礼者の一行に紛れてローマを目指すことになります。

女性であることを隠したまま、ローマで医師Johannes AnglicusとなったJohanna。その名声は教皇庁にまで届くようになります。病床にある教皇Sergiusを治療することになったJohannaは、教皇庁の一員となっていたかつての師Aeskulapiusと再会します。そんな若い医師の存在を疎ましく思っていたのが、ローマ貴族にして次期教皇の座を狙うAnastasius。若き日に父Arseniusによって権力への野望を吹き込まれたAnastasiusは、当時Aachen(現在のドイツ西部の都市アーヘン)にあった宮廷で皇帝Lotharに取り入り、ローマへの行軍をそそのかします。皇帝の力を自らの野望の実現に利用しようとしたAnastasiusでしたが、勝ち目がないと皇帝に進言したGeroldによって、彼の企みは潰えてしまいます。その後ローマに行ったAnastasiusは枢機卿となり、教皇の病床近くで采配を振るうようになっていました。Johannaの働きにより教皇の容態は快方に向かい、教皇の信頼を得た彼女は同時に民衆からも支持されるようになりますが、そこへAnastasiusに操られた皇帝Lotharの軍隊が入城してきます。JohannaがかつてGeroldと一緒に行った市場で手に入れた羊皮紙に書かれていた水力を利用した仕掛けによって、サン・ピエトロ大聖堂の扉がひとりでに開閉するのを見た皇帝とその取り巻き達は、奇跡だと信じ込み、教皇の摂政としてJohannaを認めざるを得なくなります。皇帝の軍隊と共にローマに来ていたGeroldは、奇跡がJohannaの仕業だと見破り、二人は遂に再会を果たします。Geroldの妻Richildが仕組んだ結婚式に、Gerold自身が関与していたと思っていたJohannaの誤解も解けるのでした。

またしても野望を邪魔されたAnastasius。彼の父Arseniusはすかさず次の手を打ちます。食事に盛った毒で教皇を暗殺した二人は、Johannaを罠にはめ投獄します。牢獄で失意の内に審判を待つJohanna。そこにGeroldと共に現れたAeskulapiusは、Johannaが民衆によって教皇に選ばれたことを告げます。Geroldは彼女を思いとどまらせようとしますが、Johannaは教皇になることを選びます。民衆の生活向上に尽力するJohannaは、人々から絶大な支持を得ます。この状況に怒りが頂点に達したAnastasiusは、父親が止めるのも聞かず、復活祭のパレードの際に実力行使に出ることを決意します。一方Geroldの子供を妊娠したことを知ったJohannaは、パレードの終了後、Geroldと共にローマを離れることを決意します。しかしパレードの最中、GeroldはAnastasiusが差し向けた刺客達に襲われ、Johannaの目の前で暗殺されてしまいます。襲撃のショックでJohannaはサン・ピエトロ大聖堂の階段の上で流産し、その場で絶命します。教皇が女性であったことを知ったローマ中に衝撃が走り、教皇庁はこの一大スキャンダルを歴史書から抹殺しようとしましたが、彼女を未だに支持し続けるローマの民衆の間で、女教皇Johannaの存在は伝説となって受け継がれていくのでした。

あの長い原作小説をどうやってミュージカルにするのかと思っていましたが、色々とアレンジされつつも、物語の大きな流れは3時間20分(休憩含む)の公演に収まっていました。Johannaの母親が北欧系らしき言葉を使ったり、宗教用語やラテン語が出てくるのには参りましたが、原作を読んでいたおかげで話の展開と人物関係はわりとすんなり頭に入ってきました。あくまで歴史から抹殺された「事実」を語る小説版に対し、ミュージカル版にはHeilige Katharina(聖カタリナ、読み書きが出来た知性と教養のある聖女)や母が語った異教の物語を具現化した大鴉が登場し、ノルマン人の襲撃からJohannaを守ったり、彼女の秘密を暴露しようとした父の心臓を止めるなど、Johannaの運命に神秘的な力が働いている演出になっていました。”Elisabeth”のTodesengel(死の天使)を思わせる、長い翼を両腕につけた男女の大鴉ダンサー(女性は日本人でした)のアクロバティックなダンスが凄かったです。特に長い翼を巧みに操りながらのリフトには驚かされました。Schlosstheaterで以前観た”Bonifatius”は、大道具が殆どないシンプルな舞台だったので今回も簡素なセットかと思いきや、回り舞台が使われていたり、石造りの修道院や階段のセットなどなかなか大がかりで、特にJohannaが少女時代に住んでいた家は原作の雰囲気が良く出ていました。

キャストは全体的にハイレベル。何と言ってもタイトルロールのSabrina Weckerlinがはまり役! 前半のウェーブがかかったロングヘアと灰色のロングドレス姿も、後半の少年のようなショートカットの男装も、まさにJohannaそのもの! 原作者が絶賛したのもよく分かります。圧倒的な男性優位社会の中で素性を隠して生きる女性の強さと脆さを、絶妙なバランスで演じていました。1幕ラストで男として生きる決意をした場面では、背中を向けているとはいえ、白い花嫁衣装を脱いだ裸の上半身にさらしを巻き、男性の黒い長衣を身につけて長い髪をばっさり切るという体当たりな演技を見せてくれました。彼女のJohannaを実際に見ることが出来て大満足でした! 今ドイツ語圏の若手ミュージカル女優で最も注目されているSabrinaには、是非再来日を期待したいです!

Mathias Edenbornの代わりにGeroldを演じたDennis Henschelも、セカンドとは思えない素晴らしさ! Johannaの母親役Isabel Dörferが歌う”Boten der Nacht”(夜の使者)は、不思議な響きのメロディーが遙かな故郷への憧憬をかき立てるようで、CDで繰り返し聴いています。Johannaの父親は粗暴で男尊女卑な人物。産まれたばかりのJohannaが女だと知り、「女は罪から産まれる」と言ったり、Johannaに異教の神々の話をした母親を咎めて暴力を振るう父親は、役の上では大変嫌な人間でしたが、演じていたNorbert Conradsは迫力ある歌声が素晴らしかったです。Johannaの敵対者Anastasius役のChristian Schöneもこれまたあくが強くて嫌な役にも関わらず、出番が楽しみな役者さんでした。Johannaの最初の師AeskulapiusのDaniele Nonnisは、なかなか渋くて素敵なおじさまでした。

Johannaと弟Johannesの子供時代を演じた子役の二人も、本当に上手くてびっくり! 特に地元Fulda出身でJohanna子役の11歳のFabiola Kaminskiちゃん、学校への入学に値するか知識を試される場面では、たまたま村にやってきていた、後に敵となる若き日のAnastasiusとの丁々発止のやりとりをよどみなくこなしていて、堂々としたものでした。パンフレットには5人のJohanna、4人のJohannes、そして19人もの生徒役の子達が載っており、大半は地元の子供達のようでした。23時を回っていたカーテンコールには残念ながら登場出来ませんでしたが、関係者から「カーテンコールに出られない子供達にも拍手を!」との言葉に、客席から盛大な拍手が湧き起こりました。

ストーリー的には、原作を知っている分、気になった点もありました。原作ではJohannaとGeroldの恋愛模様はなかなか進展しなかったのに、ミュージカルでは早い段階で森の中でかなり大胆にいちゃついている様子をGeroldの妻に目撃されていたのにはやや違和感が。また2幕は原作を大胆に脚色して話を進めることに偏った感があり、Geroldが登場するのが遅いこともあって、彼の存在感が薄れたように思えました。一番「あれ?」と思ったのは、Johannaがいつの間にか妊娠していたこと! 一度は教皇と臣下の関係を選び、互いへの思いを断ち切ったはずの二人が、遂に結ばれるきっかけになった劇的な洪水の場面が全くなかったのには、かなりがっかりしてしまいました。神に仕えるか、あるいはGeroldとの恋に生きるかと葛藤に満ちていた原作と比べると、舞台版のJohannaは聖職者として生きる一方で、Geroldとの恋人関係も上手く続けていたように見えて、少々都合が良いように思えてしまいました。流産したこともカーテンコールで立ったSabrinaの白い服の前面に赤い血の筋がついていたので結果的には分かりましたが、クライマックスでは階段から落ちて床にうずくまっていたために、視覚的には分かりづらかったです。

荒涼とした風が乾いた砂を巻き上げるような、荒削りで土着的な響きのする音楽は、中世の世界観によく合っています。作詞・作曲・脚本のDennis Martinにとって、”Die Päpstin”は”Bonifatius”、”Elisabeth – Die Legende einer Heiligen”に続く3作目のミュージカルで、どれも上演地域に関係が深い中世の宗教界が舞台になっています。Dennis MartinとプロデューサーのPeter Scholzが代表を務めるSpotlight Musicalproduktionが、2012年7~8月にドイツ・Potsdam(ポツダム)で上演予定の新作”Friedrich – Mythos und Tragödie“は、同じく歴史物ではあるものの、ぐっと時代は下って18世紀のプロイセン国王Friedrich der Große(フリードリヒ大王)が主人公です。Hamburg(ハンブルク)やBerlin(ベルリン)等の大都市で上演されているプロダクション(Stage Entertainmentを念頭に置いていると思われます)と同水準のオリジナル作品を、一流のスタッフと出演者で制作し、地域に見合った価格で提供したいというこの会社のコンセプトは、是非応援したいです。

昨今ショー的な要素の強いミュージカルが多く上演されているドイツ語圏。そんな中、”Die Päpstin”は久々にしっかりしたドラマがある作品でした。翌日会ったドイツ人の友人達は、「今ドイツで上演されている中でベストの作品! 1回目はそうでもなかったけれど、2回目からはまった!」「もう3回見た」と大絶賛していました。チケットの売れ行きも好調なようで、どんどん追加公演が決まっています。旅程的に1回しか見られなかったのが残念ですが、”Bonifatius”も”Elisabeth – Die Legende einer Heiligen”も再演したので、もしかしたら来年再演があるかも。2011年の上演は6月3日から8月14日までとなっています。機会があれば是非足を運んで下さい!

Schlosstheater Fulda
Schloßstraße 5
36037 Fulda, Deutschland
Tel: +49 661 10214800661-1
http://www.schlosstheater-fulda.de/


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