Marie Antoinette in Tecklenburg 2012年7月 Part 2

2012年7月ドイツの旅、Tecklenburg(テクレンブルク)の野外演劇祭Freilichtspiele Tecklenburgでの”Marie Antoinette”観劇記、Part 1はこちらです。

キャスト
Margrid Arnaud: Sabrina Weckerlin
Marion Furtner (7月6日及び8月12日)
Marie Antoinette: Anna Thorén
Giuseppe Balsamo alias Cagliostro: Yngve Gasoy-Romdal
Graf Axel von Fersen: Patrick Stanke
Louis XVI.: Frank Winkels
Herzog von Orléans: Marc Clear
Agnés Duchamps: Wietske van Tongeren
Rose Bertin: Corinna Ellwanger
Léonard: Jan Altenbockum
Charles Boehmer: Julian Sylva
Madame Juliette Lapin: Anne Welte
Kardinal de Rohan-Guéméné: Sebastian Sohn
Maximilien de Robespierre: Michael Clauder
Madame Lamballe: Daniela Römer
Pierre A. Caron de Beaumarchais: Benjamin Witthoff
Escort-Damen des Hotel d’Orléans (4): Yael de Vries, Elena Zvirbulis, Marthe Römer, Silja Schenk
Madame La Motte: Christina Hindersmann
Jaques René Hébert: Hakan T. Aslan
Ensemble Damen(女性アンサンブル): Lucy Costelloe
Ensemble Herren (3)(男性アンサンブル): Andrew Hill, Kevin Foster, Jörn Ortmann

7月6日、7日、8日の公演では王妃役のAnna Thorénが風邪で歌えなかったため、舞台上では台詞と演技のみ行い、Bremen(ブレーメン)で同役を演じたRoberta Valentiniが、急遽指揮者の隣で譜面を見ながら歌の部分だけ代役を務めました。

Margrid Arnaud役(マルグリット)のSabrina Weckerlinは、Fulda(フルダ)で上演中の”Die Päpstin”との掛け持ち出演。1回の旅行で両方見ることが出来たのはラッキーでした。汚れた服に傷ついた獣のようなとげとげしさを秘めた眼差しが印象的なMargrid。権力に立ち向かう力強さ、孤独の中にふと見せる弱さ、滅多に見せないからこそ心に残る笑顔。Sabrina Weckerlinが見せる多彩な表情が、Margridの魅力を作り上げていきます。パワフルな歌声はさすがSabrinaと思いましたが、贅沢を言えばやや物足りなさも。たとえば”Ich weine nicht mehr”(心の声)のラストは、Sabrinaならもっと力強く高音を伸ばせるのではと思いました。また何となく元気がないように思える時もありました。後で分かったのですが、実はSabrina、喉を痛めていたのでした。それを知ると、逆にその状態であれだけ歌えるSabrinaの凄さに感じ入りました! 日本にも是非また来て欲しいです!

Marie Antoinette(マリー・アントワネット)役のAnna Thorén、私が見た回では体調も回復し、美しく高慢な王妃とやつれた姿になっても毅然とした貴婦人を熱演していました。Wien(ウィーン)の”Tanz der Vampire”でMagdaを演じていたAnna Thorénは、存在感という点ではドイツ語圏ミュージカルの若手女優No. 1のSabrinaに比べるとやや弱い気がしましたが、Tecklenburg版では王子が亡くなる場面がカットされ、王妃の見せ場が減ったことも一因かもしれません。裁判の場面ではもっと一身に注目を集める磁力が感じられるとなお良かったですが、これも舞台上に群衆を始め多くの登場人物がいたので、視線が分散されたせいかもしれません。

Cagliostro(カリオストロ)はTecklenburg版で最も印象的な役となりました。別世界に存在する魔術師だった東宝版『マリー・アントワネット』、実験室にこもる悪魔的な印象を受けたBremen版とは打って変わり、積極的に世界に交わり、混乱を引き起こすトリックスター的なCagliostroを演じたのはYngve Gasoy-Romdal。Wien版”MOZART!”のWolfgangを思い起こさせる、子供がそのまま大人になったようなキャラクターでした。東宝版ではストーリーへの絡みが少なく、正直「この役は何のためにあるのだろう?」と思ってしまいましたが、Tecklenburgでは4人の黒衣の部下を従え、八面六臂の大活躍。語り手として説明的な歌詞を多く担当し、他のバージョンでは別の役が歌っていたメロディーがCagliostroに振り替えられている箇所も多くありました。

Graf Axel von Fersenを演じるのは、Bremen版に出演し、『M.クンツェ&S.リーヴァイの世界』への出演で、日本でもすっかりお馴染みになったPatrick Stanke。御本人は陽気でお茶目な人柄ですが、Fersenとしては大変真面目な演技を見せてくれました。王妃の愛人役にしてはちょっとぽちゃっとしていましたが(笑)、ひとたび彼の美声が耳に入れば何も気になることはありません! 『なぜあなたは王妃なのか』のラストのロングトーンは驚異的でした!

Louis XVI.(ルイ16世)はFrank Winkels。燦然たるスターが揃うTecklenburgのキャストの中では知名度の点では地味な存在でしたが、濃い顔立ちと街中での遭遇率No. 1だったため、妙に印象に残りました(笑)。あまりにもよく出くわすので先方に覚えられてしまい、目が合うと挨拶をする仲(!?)になりました(笑)。

Herzog von Orléans(オルレアン公)役のMarc Clearは、今回の舞台の演出も担当しています。2010年の”3 Musketiere”(三銃士)ではAthos役と監督を兼ねていました。独特の渋い声がOrléans役に合っています。最初の登場場面で被っている白いカツラは似合ってませんでしたが(苦笑)、黒のベストにロングブーツの出で立ちは、シャープなイメージで格好良かったです。Marcもカフェのテラス席で見かけました。素顔の彼はスキンヘッドのヘビースモーカーです。

Agnés Duchamps(アニエス)役のWietske van Tongerenは、Wien(ウィーン)版”Rebecca”の”Ich”(私)や”Rudolf”のStephanie役でご覧になった方も多いと思います。一時衣装がはち切れそうで心配になるほど体型が変わっていましたが、久々に見た彼女はびっくりするほど痩せて綺麗になっていました。彼女も観劇前にカフェにいるところを見かけたのですが、かなり印象が変わっていたので、すぐには分かりませんでした。修道女姿はSalzburg(ザルツブルク)でUwe Krögerと共演した”The Sound of Music”のMaria役で経験済みの彼女、持ち前の柔らかく暖かな声は、心優しい修道女役にぴったり。Sabrina演じるMargridとのデュエットの美しさには聞き惚れてしまいました。2012年11月からHamburg(ハンブルク)でDrew Sarichと共に”Rocky – Das Musical”に出演するWietske、コーヒー片手に”Rocky”のロゴが背中に入ったグレーのパーカー姿で通りを歩いているところも目撃しました。

キャストの歌のレベルは全く文句なし。山村の野外劇場に、大都市の劇場でプリンシパルをやるレベルの俳優がこれだけ集まるとは、何という贅沢なイベントでしょう! オーケストラとコーラスはまあまあといったところ。指揮のテンポは基本的には悪くないのですが、割と淡々と進んでいくので、緩急の点では物足りなさも。特に2幕の裁判の場面はもっと前のめりの指揮でドラマティックに盛り上げて欲しかったです。コーラスは地元の人々がエキストラで出ています。老若男女取り混ぜて大人数が横長の舞台に所狭しと集う迫力は、Tecklenburgでの観劇の魅力の一つ。コーラスの歌唱力という点では男女のバランスが女声に偏っているために厚みに欠け、東宝版アンサンブルの地の底から湧き出るようなプロの迫力には及びませんでしたが、そこは人数でカバー。

Part 3に続きます。

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9 Comments

  1. spaさん、お久しぶりです。旅行記をずっと楽しく、うらやましく読ませていただいています。
    Sabrina Weckerlinは、Marie AntoinetteのCDを初めて聴いたときからずっと、迫力のある生きた声だと思っていました。生の舞台をいつかみたいです。以前、来日されたときは東京だけでチケットも取りにくかったようで、観に行くことができませんでした。でも観るなら現地がいいなと思っています。
    MAは曲がとてもいいので大好きですが、Die Päpstinの曲はオススメでしょうか?CDを買おうかなと思ったことがあるのですが、全然知らないミュージカルなので、まだ手にしていません。
    ところで、MAのギロチンなのですが、以前、日本で涼風アントワネットのをみた際、最後に仰向けでギロチンにかけられるので、
    ギョッとしてそればかりが強烈に印象に残ってしまったことがあります。仰向けのギロチンなんて「人道的」な死刑道具どころか、刃が迫ってくるのを見せつけられる残酷な道具になってしまいます。現地のはどうなっているのでしょうか?

    Juliさん、「マテトートにはまった」仲間をみつけられて、とてもうれしいです。私のドイツ語ミュージカルの原点は、2005年末にウィーンで観たElisabethなので特別です。10月の大阪公演には3回行くことにしました。年末はspaさんのブログで教えていただいた別のメンバーのElisabethをWienで観るのが楽しみです。
    spaさん、MAのPart3も楽しみにしています。

  2. Märzさん、2005年にウィーンでElisabethを!うらやましい!!
    今年はとにかく日本にいるマテトートをたくさん観ようと、東宝版を博多以外に行って、10月も大阪と東京に行く予定です。

    それから、MAのギロチンですが、spaさんもPart4で書かれているように、円筒形のセットの後ろ側にあって、処刑の時にその前に仰向けになるというシーンはなかったです。
    私が観た時は、王の処刑ではギロチンが上下した様子がわかりましたが、アントワネットの時は動かなかったので、故障だったのかなと思いました。ここはいつも動かないのでしょか?

    spaさんの詳しい解説で内容がよくわかりました。ありがとうございます!
    日本でもMAを観てみたいです。

  3. Märzさん、MA観劇記を書き終えるまではお返事出来ないなあと密かに焦っておりました(笑)。

    Sabrinaは歌も演技もダンスも上手くて、シリアスからセクシーな役まで何でもこなせる才能に溢れた女優さんです。御本人もまた日本に行きたいと言っていたので、是非再来日を果たして欲しいです。とりあえず来年の夏は"Die Päpstin"の再々演に出ると思うので、そこを狙ってみては如何でしょう? もの悲しげで異国情緒を感じさせる音楽も素敵ですよ。Sabrinaが記者会見で歌っている映像をご紹介しておきますね。

    http://youtu.be/x1jJAIFdUmU

    MAの王妃の処刑場面は観劇記にも書きましたが、ギロチン台の横に立ったところでセットが回転して王妃の姿が見えなくなるので、最後の瞬間は観客の想像に任されていました。ギロチンは人道的だと言いますが、処刑される側にとっては結局命を奪う残酷な道具ですよね。東宝版の巨大ギロチンがゆっくり迫ってくる演出、革命の残酷さをむき出しに現しているようで私は結構OKだったのですが、確かにショッキングな絵ではありましたね。Bremenでも同様の演出でしたが、刃が落ちる速度が思った以上に速くて、あっさりし過ぎなのが不満でした。監督と現地スタッフの意思疎通が上手くいってなかったのかなと思ってしまいました。

    Juliさん、MAラストのギロチンは元々動かない演出でした。3回見たので間違いないです(笑)。今度は日本で新妻さんのマルグリットをもう一度観たいです!

    MärzさんもJuliさんもマテトートの魅力にはまってますね(笑)。6月の来日公演プレイベントでもちょっと体験しましたが、いよいよ彼の日本語トートを観る日が近づいてきています。10月の来日公演も勿論通う予定です。ウィーンにも行かねばと思っておりますが、観劇予定が増えすぎて時間と資金を確保するのが大変です(笑)。

  4. spaさん、お返事ありがとうございます。
    MAレポートがPart4まであり、たっぷり楽しませていただきました。ちょっとだけ観たような気分になりました(笑)
    spaさんのブログでドイツミュージカルツアーを実行された方が多いことに驚き、でも納得という感じです。
    私はドイツに友達がいるので何度も行っているのですが、
    ミュージカルツアーをしようという発想がspaさんのブログを
    拝見するまではありませんでした。
    今から考えると、とてももったいなかった!と思います。
    でも、これからでも遅くありませんね。特に野外劇場がある小さな町はまだ訪れたことがないので、観光もかねて行ってみたいです。夏の遅い夕暮れ時にレストランの屋外のテーブルで、
    ゆったりとドイツワイン(フランケンワインが私のLieblingsweinです!)を飲むのが夏のドイツ旅行の楽しみでもあるので、田舎町でミュージカルを楽しむ前後にそんなことをするのもいいなと思います。

    処刑場面についても説明していただいて、ありがとうございました。とりあえずは日本での再演を観たいので、早くやってください!その後でドイツで鑑賞できたら、よりじっくり観ることができそうです。

    "Die Päpstin"の教えていただいたサイトを拝見しました。Sabrinaの歌に関係者もじっと聴き入っているという感じですね。教皇が女性なんてありえないことですが、その発想もおもしろいですし、舞台映像も少しですが覗いてみたら興味を惹かれました。来夏、観ることができたらいいなと思っています。

    spaさんのブログを通じて、Juliさんのようなマテトートファンもみつかって嬉しいです。水泳で体を引き締めてますますステキになったマテの日本語トートとコンサート版のドイツ語トート、どちらも楽しみです!

  5. spaさん、MAラストのギロチンは動かない演出なんですね。故障じゃなくてよかったです。教えて頂き、ホッとしました(笑

    spaさん、Märzさん、私は今週、中日劇場に行ってきます。日本語トート、帝劇からさらに変化しているか楽しみです。
    本当に今年は、マテトートのために時間もお金もいっぱいかけてしまっています(大汗

  6. Märzさん、お返事大変遅れてすみませんでした。私もその昔は海外にミュージカルツアーに行くなどとは考えていませんでしたが、いつの間にかこんなことになってしまいました(笑)。夏の夕暮れに屋外でワインを楽しむ一時、想像しただけでもすぐにドイツに行きたくなりますね! Trierの川沿いのレストランで、まさにそういう時間を楽しんだことを思い出します。もっともミュージカル巡りをすると、ゆったり夕食にワインを楽しむ余裕がないのがジレンマですが(苦笑)。フランケンワイン、私も好きです。ドイツではびっくりするほど安いですよね。先週はビールの国でビール三昧してきました(笑)。

    "Die Päpstin"、もしご覧になる可能性があるなら原作の小説『女教皇ヨハンナ』を読んでおくことをお薦めします。とてもドラマチックで一気に読めてしまいました。映画版もあるのですが、日本では未公開のようです。ドイツの友人はかなり良かったと言っていました。

    juliさん、ギロチンの疑問、解決できて良かったです。中日劇場でのマテトート観劇、如何でしたか? 私もいよいよ見に行きます!

  7. spaさん、ご丁寧お返事ありがとうございます。ウィーンから帰ってこられてまたビールの国(チェコですか?)へご旅行とはうらやましい限りです。冬にウィーンへ一緒に行く友達もワインが大好きで(オーストリアワインも美味しいですね!)、ミュージカルやコンサート、オペラの前後にいかにワインを楽しむかが課題です(笑)
    "Die Päpstin"、観劇できるのはいつになるかわかりませんが、spaさんのオススメに従って早速、原作の小説(もちろん日本語訳ですが)を注文してしまいました。届くのが楽しみです。
    梅芸でのエリザが始まったので、マテが大阪にいる!というのがうれしいマテファンの私です。東京、名古屋と演じて日本語もさらに上手になっていると期待しています。
    juliさんのコメントも楽しみにお待ちしております!

  8. spaさん、Märzさん、中日劇場行って来ました!もう1週間もたってしまいましたが、少し書かせて頂きます。
    マテの中日楽を観て来ました。日本語、帝劇よりさらに上手になってましたよ!大阪で初めて観たら、びっくりすると思います。(私は、帝劇初日でも十分びっくりして、通ってしまったのですが・・・笑)
    実は、中日にも3回も行ってしまい、マテのアフタートークショーも見たのですが、なんだか「暑い」「疲れている」と言っていて、ちょっと心配でした。
    でも、さすがに楽は、気合が入っていて良かったです!
    中日劇場は、ちょっと小さいので舞台が近くて2階席からも良く見えました。
    そして、楽の後に、ファンミーティングにも参加してしまいました。
    そこでも、「日本の夏は暑い。ヨーロッパ人は汗をいっぱいかいた」と言ってました。あと、「何語で話しかけられたいか?」という質問に「ハンガリー語」と答えていました。涼しいハンガリーが恋しくなっていたのかも。

    もう9月、大阪公演も始まりましたね。大阪にも行く予定です。
    今日は、東宝の衣装のままドイツ語で「最後のダンス」を歌ったらしいですね。ウィーン版も早く観たい!でも、ウィーン版の公演って短いですよね・・・もうちょっと長くやって欲しいですよね。
    マテトートが観られるのもあと2ヶ月と思うと、少し寂しいですが、最後まで見届けたいと思います。
    お二人も、大阪公演をたっぷり楽しんでくださいね。

  9. juliさん、中日劇場で楽しまれた『エリザベート』、遂に大阪にもやって来ました。詳しくは記事に書きましたが、Mátéの活躍ぶりは感動モノでした! 来日するとは考えもしなかった時代からMátéを知っている身としては、よくここまでやったものだとひたすら感心してしまいました。6月のコンサートでMayaさんがMátéと再会した際に、二人で抱き合って10分間泣き続けたという気持ちがよく分かりました! 

    ファンミーティングの様子もありがとうございました。日本の夏は湿気が多くて、慣れていない欧州人にはかなりきついと思います。特に今年は暑かったので、さすがのMátéも疲れてしまったのでしょうね。大阪初日は休みの後だったからか、元気いっぱいに見えました。大阪でもMátéの勇姿を楽しんで下さいね。Märzさんもご覧になったでしょうか?

    ウィーン版の公演は、梅芸で貰った小冊子には2013年6月29日までと書いてありましたが、ウィーンの千秋楽は日にちが変わることがよくあります。また期間限定と言っていた"Tanz der Vampire"も上演期間を延長したので、"Elisabeth"も2シーズンやるのではないかと勝手に思っております。と言っても観るならやはり早い方がいいですね。

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