NY版Rebecca 2012年秋公演中止へ

2012年9月10日付けの記事「NY版Rebecca、再び延期へ」で、NY版”Rebecca”の上演が資金不足で危ぶまれている状況をお伝えしましたが、playbill.comに、今秋の公演中止とその背景を紹介する記事が掲載されました。それによると、プロデューサーのBen Sprecher及びLouise Forlenza両氏が、度重なる延期を経てようやく開始されることになっていたリハーサルの前日に当たる9月30日に、公演資金の調達に失敗したことを発表したそうです。「不足分の資金を出してくれるはずの投資家が、悪意に満ちたメールに脅かされて出資を取りやめた」という何やらミステリアスな説明がなされています。

当初2012年初頭にBroadhurst Theatreでの上演が予定されていた”Rebecca”でしたが、2012年1月24日に資金不足により上演を同年秋に延期することが発表されました。その後”Rebecca”の制作費1200万ドルのうち3分の1を出すことになっていた匿名の海外の出資者が8月初めに死去し、約束されていた出資金を確保すべく遺族と交渉中のため、9月10日に予定していたリハーサルの開始を2週間遅れの9月24日とするとの説明が、プロデューサーからなされました。9月26日に制作側から出演者達に送られたメールには、資金問題は解決に向かっており、リハーサルは10月1日に開始することが述べられていたそうです。しかし9月30日にプロデューサー達が出した声明は、「公演延期以外のオプションは残されていない」というものでした。

Sprecher氏が名前を明かさなかった出資者について、New York Timesが2012年9月25日付けで調査記事を発表しています。記事によると出資者の名前はPaul Abramsといい、通常この種の投資で考えられる額の10倍に当たる450万ドルを拠出すると約束していたそうです。彼は8月にLondon(ロンドン)でマラリアのため死去したとのことですが、同紙によると死亡記事も死亡広告もなく、Abrams氏の遺産を代表管理するWexlerなる人物が浮かび上がったものの、この人物は電話での会話を拒否し、先月作られたばかりのメールアカウントでのみ連絡を取るという謎の存在。しかもプロデューサーのSprecher氏自身、Abrams氏と会ったことも電話で話したこともなかったことまで判明したそうです。Broadway(ブロードウェイ)の三大劇場主であるShubert Organizationのトップで、”Rebecca”に6桁の出資を行い、更に上演予定のBroadhurst TheatreのオーナーであるRobert E. Wankel氏も、「ショービジネスの世界は独特の慣行で動いているとはいえ、出資金の30%を担う人物と会ったこともないというのはさすがに前代未聞だ」と驚いています。

New York Timesの電話インタビューに対し、Sprecher氏は「Wien(ウィーン)やHelsinki(ヘルシンキ)で成功を収めた”Rebecca”はBroadwayでもヒットするだろう、財政的な面では過ちを犯したが、この作品を上演するためにあらゆる努力を惜しまない」と答えています。また万が一上演出来ない場合は、出資者に返金することも約束していますが、今までに集めた資金は既に舞台装置の制作に投じられているため、上演不可能となった場合は、彼の会社は壊滅的な打撃を受けることが予想されています。Off BroadwayでShubert Organizationの劇場を運営していたSprecher氏にとって、”Rebecca”はBroadwayのメインストリートへの飛躍の足がかりであり、Roy Furman(”The Book of Mormon”)やDavid Stone(”Wicked”)といった有名プロデューサー達が回避したこの作品のプロデュースに手を挙げ、Paul Abrams氏のような正体不明な出資者の助力を仰いだことは、New York Timesの論調ではいささか功を焦った行動と見なされているように思えました。

9月30日のSprecher及びLouise Forlenza両氏の声明では、Paul Abrams氏の死によって生じた不足額を埋めてくれる新規の出資者が見つかったものの、9月28日朝に匿名の第三者が嘘を並べ立てた非常に悪意に満ちたメールをこの出資者に送りつけたこと、その内容は出資者を怯えさせ、送信者の意図通りこの人物は出資を断念するに至ったこと、そのことを同日午後1時頃に知ったことが明かされていました。メールのコピーは当局に提出され、犯罪捜査も既に始まっていると述べられています。

そもそもPaul Abramsなる人物は実在していたのでしょうか? Sprecher氏自身は明言を避けていますが、New York Timesが伝える内容を読むと、かなり怪しいと言わざるを得ません。Sprecher氏は一度Abrams氏と会う約束をしたものの、Abrams氏側からキャンセルされ、彼自身もわざわざ海を越えてAbrams氏に会いに行く必要はないと考えていたそうです。Abrams氏の関係者からマラリアで亡くなったとのメールが届いたのは、まさにSprecher氏がリハーサルと舞台制作を開始し、支払いのためにAbrams氏の資金が必要になったその時でした。Sprecher氏はAbrams氏の関係者に遺産から約束の出資額を出して貰うべくLondonに飛びましたが、遂に遺産の管理者であるWexler氏(ファーストネームが不明なため、男女の別も分からないそう)に会うことは出来なかったそうです。

謎のWexler氏はNew York TimesがAbrams氏の詳細情報を問い合わせたメールに返信してきたものの、コメントは拒否したとのこと。更にMilton Silversteinと名乗り、AOLのアカウントを利用しているAbrams氏の別の関係者にもコンタクトを試みましたが、やはりAbrams氏の情報は得られなかったとのことです。Sprecher氏によると、Abrams氏は南アフリカ共和国のJohannesburg(ヨハネスブルク)に拠点を置くビジネスコンサルタントだったそうです。

Sprecher氏の釈明を読む限りでは、今回の上演中止は一時的なものであり、”Rebecca”のNY公演は完全に断念されたわけではないようですが、リハーサルや初日についての新たな日程は今のところ発表されていません。

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