Chess in Concert in ノルウェー観劇記(2014年8月)

2012年に”CHESS in Concert”として日本初演を迎え、翌2013年にも再びコンサート版として登場したミュージカル”Chess”。そして2015年秋、満を持して舞台版”CHESS THE MUSICAL”がお目見えします(東京公演2015年9月27日~10月12日、大阪公演2015年10月19日~25日)。ABBAのBenny AnderssonとBjörn Ulvaeusが作曲を手がけ、”Evita”、”Jesus Christ Superstar”、”Lion King”のTim Riceが原案・作詞を担当したこの作品は、東西冷戦の最中に行われたチェスの世界選手権を舞台に、米国とソビエト連邦のそれぞれを背負う天才チェスプレイヤー達、彼らを愛する女性達、そして彼らを政治的に利用しようともくろむ人々の思惑が交錯する人間ドラマを描き、その深い内容とロック、ポップス、クラシックと多彩なテイストを持つ楽曲の素晴らしさから、ミュージカルファンの中で高い評価を得ています。

2014年8月、ノルウェーの北極圏にあるオーロラ観光で有名なTromsø(トロムソ)で開催されたチェスの国際大会Chess Olympiad Norway 2014 Tromsøに合わせて、TromsøとBodø(ボードー)を拠点とするArctic Philharmonic(Nordnorsk Opera og Symfoniorkester、通称NOSO)が”Chess in Concert”を上演しました。このコンサートにノルウェー出身のYngve Gasoy-RomdalがAnatoly役で出演するということで、ノルウェー在住の友人と北緯70度の地に赴きました。Mさん、その節はチケットの手配から宿泊に移動と何から何まで大変お世話になりました。ありがとうございました!

帰国後すぐに時間が取れなかったこともあり、ついついレポートが後回しになってしまううちに時間が経ってしまい、気がつくと1年が過ぎておりました。このままパスしようかとも思ったのですが、日本での”CHESS THE MUSICAL”上演の応援を兼ねて、ノルウェーでの観劇体験をご紹介します。

日本からノルウェーへの直行便はないので、大阪~羽田~Frankfurt(フランクフルト)~Oslo(オスロ)~Tromsøというルートで飛びました。大阪を出発した当日現地時間の深夜(日本時間翌日)にOsloに到着し空港ホテル泊、翌日はOslo観光、夜は空港ホテルに戻り、翌朝友人達と合流して空路Tromsøに向かいました。Osloからは約2時間のフライトでした。

Tromsø空港の手荷物受け取り場にコンサートのポスターが貼られていました。

ターンテーブル上部にもコンサートの宣伝が。

市内の図書館に掲げられたバナー。

ポスターの顔となっているのはFlorence役のLisa Stokke。Tromsø出身の彼女は、”Mamma Mia!”のオリジナルロンドンキャストとしてSophie役を演じた他、”Frozen”(アナと雪の女王)のノルウェー語版でElsa(エルザ)役の吹き替えと”Let it Go”の歌唱を担当しており、いわば地元の大スターという扱いでした。

Tromsøは人口7万人ほどの街。旅行ガイドにあった「北のパリ」という表現はかなり大袈裟に思えるこじんまりとした中心部は、人影もまばら。沢山のヨットが停泊している波止場に面して、カラフルな建物やホテルが建ち並んでいました。コンサートの出演者は、チェス・オリンピアードの直前に開業した高級ホテルに滞在していました。

海を挟んで対岸に見える白い建物は北極教会(Arctic Cathedral)。歩いて30分ほどの距離でした。

MUJI発見。価格は日本の3倍でした!!!

新工場に移転した2012年までは世界最北とされていた醸造所で作られているMackビール。美味しかったです!

チェス・オリンピアードに盛り上がるTromsøの街。2013年に史上最年少の22歳でWorld Chess Championshipの優勝者となったMagnus Carlsenはノルウェー出身。この大会も彼が出場することを全面的にアピールしていました。ノルウェー国内での関心も高いようで、大会のオープニングセレモニーは全国放送されていました。

“Chess in Concert”の会場は町外れの体育館でした。スポーツの試合やロックコンサート等の大規模イベントは、ここで開催されるのがTromsøでは定番のようです。

2014年8月3日、4日(計2公演)
“Chess in Concert”
Music: Björn Ulvaeus, Benny Andersson
Text: Tim Rice
Conductor: Anders Eljas
Director: Johan Osuldsen
Choir: The University Choir Mimas
Orchestra: The Arctic Philharmonic (Nordnorsk Opera og Symfoniorkester), The Armed Forces’ Band North (FMKN)
The Solists: Lisa Stokke (Florence), Yngve Gåsøy-Romdal (The Russian, Anatoly), Espen Grjotheim (The American, Freddy), Reidun Sæther (Svetlana), Haldor Lægreid (The Arbiter), Nils Christian Fossdal (Molokov)
Venue: Skarphallen

1. Melano
2. The Russian and Molokov
3. Where I want to be
4. The Arbiter
5. Diplomats
6. Merchandisers
7. The Arbiter (reprise)
8. Merchandisers’ hymn
9. Quartet
10. The American and Florence
11. Nobody’s Side
12. Chess
13. Mountain Duet
14. Florence Quits
15. Someone else’s story
16. Embassy lament
17. Anthem
18. Bangkok
19. One Night in Bangkok
XX. He’s a man, he’s a child
20. The Soviet Machine
21. Heaven help my heart
22. Argument
23. I know him so well
24. The Deal
25. Pity the Child
26. Endgame
27. You and I/The story of Chess

会場に入ると想像より遙かに本格的なステージが目に飛び込んできました!

舞台の中央にはチェスセットが載ったテーブルと椅子が置かれていました。

ステージ中央の大型スクリーンの下部には扉があり、そこからキャストが登場する演出もありました。客席サイドのスクリーンにはステージの映像が映し出されていました。

キャストの出入りには舞台下手の階段が主に使われていました。

国際イベントに合わせて開催されるだけあり、公演は英語上演、パンフレットも英語で無料で配布されていました。

オーケストラはArctic Philharmonicに加え、ノルウェーの軍楽隊も参加した大所帯。コーラスもかなりの大人数を揃えていました。会場こそ体育館ですが、2008年5月にRoyal Albert Hallで行われ、DVD化もされている”Chess in Concert”を彷彿とさせる雰囲気に驚きました。初日は観客が2100名入ったとのことで、会場が暑くなるので服装に注意するよう主催者側から事前予告があったほどでした。2日目も月曜だったにも関わらず、初日の評判を聞きつけた人々で観客席は一杯になっていました。

指揮者のAnders Eljasはスウェーデン人で、ABBAの欧州及びオーストラリアツアーにキーボードで参加し、”Chess”のオリジナルバージョンの編曲を手がけた人物。”Chess”同様、Björn UlvaeusとBenny Anderssonによるミュージカル”Kristina från Duvemåla”の編曲も手がけています。”Chess in Concert”のリハーサル中にAnders EljasがBenny Anderssonに直接電話をかけて、このコンサートは素晴らしいものになると言っていたそうです。Anders Eljasの妻のWenche Myhreはノルウェーの国民的歌手で、Yngveも以前彼女と共演したことがあります。

Florence役のLisa Stokke以外のキャストも、ノルウェーミュージカル界のスター達が集結していました。Freddy役のEspen Grjotheimは”Mamma Mia!”、”Fame”、”La Cage aux Folles”、”Les Miserables”等に出演した経歴の持ち主。2011年の”We Will Rock You”ノルウェー初演ではGalileoを演じました。スター誕生番組でブレイクしたそうで、私達の後ろの席の女性3人組はEspenの追っかけだったようです。

Svetlana役のReidun Sætherは、”Les Miserables”のCosette、”Cats”のJellylorum/Griddlebone、”We Will Rock You”のKiller Queenと幅広い役柄の経験があります。歌手としてもEurovision Song Contest 2012のノルウェー国内予選決勝で2位となった実力派。

Arbiter役のHaldor LægreidもLisa Stokkeと同じくTromsø出身。Eurovision Song Contest 2001にノルウェー代表として出場しました。ドイツ語圏ミュージカル界でも活動しており、ドイツ・Berlin(ベルリン)の”Tanz der Vampire”等に出演しています。

“Sunset Boulevard”、”MOZART!”、”Jekyll & Hyde”、”Die Schöne und das Biest”等に出演し、2015年10月からは”Liebe Stirbt Nie”(Love Never Dies)のRaoul役を演じるYngveは、ドイツ語圏ミュージカル界では押しも押されぬ大スターですが、ノルウェーではあまり仕事をしていないので、恐らく”Chess in Concert”の観客の大部分は彼を知らなかったと思われますが、1回目のコンサート翌日の地元紙iTromsøに掲載されたコンサート写真には、Yngveの出演場面が多く取り上げられていました。

コンサートはDVDとは異なり、”Melano”から始まって”The story of Chess”は最後のナンバーでした。冒頭にAnatolyがSvetlanaと息子に見送られる場面がありました。サイトに掲載されていた上演予定時間がDVDよりもかなり短いのが不思議だったのですが、台詞の大部分が省略されていて、ほぼ歌で構成されるコンサートになっていたのと、カットされたメロディーがかなりあったためでした。

最初のハイライトは”Quartet”。息もつかせぬテンポでそれぞれのパートを歌う4人の様子は、まさにアクロバティック! 聴いているこちらの方がドキドキするような危うい均衡の中でのメロディーの絡み合いは、多分DVDよりもテンポが速かったと思うのですが、息がぴったり合っていて大変素晴らしかったです。

“Nobody’s Side”は地元出身のスターLisa Stokkeが歌うとあって、大変盛り上がりました。コンサートに先立ち、8月1日に行われたChess Olympiad Norway 2014 TromsøのオープニングセレモニーでLisaが”Nobody’s Side”を歌った映像がネット公開されているので、是非ご覧下さい。Lisaの出番は29分頃です。

画質はぐっと下がりますが、同じ映像がYouTubeでも公開されています。

LisaとYngveの”Mountain Duet”は、二人の声の美しいハーモニーがとてもロマンティックでした。Freddy役のEspen Grjotheimは甘いマスクに白シャツと大ぶりのクロスがセクシーで、チェス界のスーパースター役にぴったり。

“Someone else’s story”は第1部で歌われました。友人お薦めのSvetlana役のReidun Sæther、情感に溢れた力強い声に心を奪われました!

第1部のラストの名曲”Anthem”、この曲を母国ノルウェーで歌うYngveの姿を見られたことにとても感動しました! きっとYngve本人も胸に迫るものがあったことでしょう。

幕間に20分の休憩を挟んで第2部が始まりました。

“One Night in Bangkok”の次に、”Chess in Concert”スウェーデン公演の際に書き下ろされたSvetlanaの新曲”He’s a Man, He’s a Child”が挿入されていました。この歌が英語で披露されるのは今回が初めてで、内容もスウェーデン語版のそのままの訳ではなく、新たに作られた英語歌詞とのことで、Tromsø公演の一つの目玉になっていました。しっとりと始まり、次第に激しく情熱的に力強く歌い上げるReidunの歌声の素晴らしいこと! 特に女性でここまで低音が出せるとは驚きです!!! しかもこのライブ録音を聴いたBenny Andersson自身がいたく気に入ったそうで、シングルカットして自身のレーベルからリリースする運びとなりました。”He’s a Man, He’s a Child”はAmazonとiTunesでダウンロード可能です。あのコンサートで聴いた曲を再び聴くことが出来るとは!!! 勿論早速ダウンロードしました!

He’s a Man, He’s a Child – Single
Reidun Sæther & Arctic Philharmonic

“He’s a Man, He’s a Child”のプロモーション映像には、”Chess in Concert”の公演映像が使用されています。フルオーケストラの素晴らしい演奏とReidunの魂からほとばしるような叫び、是非お聴き下さい!

“He’s a Man, He’s a Child”の歌詞はこちらの映像で紹介されています。

Lisaの美しい歌声に聴き入った”Heaven help my heart”に続くAnatolyとSvetlanaの口論の場面”Argument”は、前の歌とは真反対に息をのむような緊迫した掛け合いでした。YngveもReidunもお互い一歩も退かず、まるで肉食獣同士の戦いのよう! その食うか食われるかのような大迫力に観客全員が呑まれてしまい、歌が終わっても拍手が出来ないほどでした。すっかりReidun押しになってしまった私、”I know him so well”でもLisaよりもReidunに聴き入ってしまいました。”The Deal”でのYngveとEspenのデュエットも素晴らしかったです。続いての”Pity the Child”ではEspenの熱唱を堪能しました。

“Endgame”の冒頭、コーラスとオーケストラの厳かな演奏をバックに歴代の名チェスプレイヤーの写真が次々と映し出される中、最後にノルウェー人王者Magnus Carlsenの写真が登場すると、客席から大喝采が湧き起こりました。”Endgame”の最中、子連れで現れたSvetlanaがAnatolyを嘘つきと責める場面がこれまた迫力満点で、鬼のような剣幕に見ているこちらが震え上がりそうでした。このコンサートの中でも特に印象に残った場面でしたが、どうも地元紙のカメラマン氏もそうだったのか、コンサート写真にこの場面が妙に沢山使われております。

コーラスによる”The story of Chess”に続いて、いよいよラスト。舞台の左右からそれぞれキャリーバッグを牽いたAnatolyとFlorenceが現れ、”You and I”を歌い上げた後、別々の方向に去って行きました。コンサート2日目のこの場面では、Lisaと別れて舞台の端まで歩を進めたYngveが、ふと首にかけたマフラーの両端を持ってパタパタと軽く煽いで「暑いよね」と言わんばかりに表情を緩めた様子に、母国での大イベントを終えてほっとした気持ちを感じました。

フィナーレの音楽は最初の曲”Melano”。2日目のカーテンコールではReidunとYngveが肩を組んで小躍りしていました。

山と海に囲まれた美しいノルウェーの街で体験した”Chess in Concert”、心に残る思い出になりました。

2日間のTromsø滞在を終え、翌朝早く空港に向かうバスに乗っていたところ、波止場近くの停留所から金髪の若い女性が乗ってきました。髪を束ねてノーメイクだったのでちょっと自信がないのですが、背格好といいReidunのような気がしてなりませんでした。降車時に目が合って、ちょっと微笑まれたような気がしたので、やっぱりReidunだったのかも。思い切って声をかけてみれば良かったと今更ですが少々悔やんでおります。

Chess in Concert [DVD] [Import]

2016.02.12 追記: Arctic Philharmonic及びLisa StokkeのYouTubeチャンネルよりコンサートの映像を追加しました。

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